部屋が赤い西日に染められる頃。ようやくエーリッヒの誕生日プレゼントの検分にも飽きたミハエルは2人の部屋を後にした。
「まったく、あのひとは…。もう少し遠慮というものを知って欲しいものだ。」
シュミットとエーリッヒが恋人同士であることを十分知っていながら、ああやってひょこりとふたりの時間を邪魔するのだからたちが悪い。エーリッヒはすっかり空になった紅茶のカップやお菓子の包み紙を片付けながら、「ミハエルもあなたには言われたくないでしょうね。」と笑った。む、とシュミットは面白くなさそうに口を引き結ぶ。カチャリカチャリと陶器の触れ合う音をさせていたエーリッヒが、ふいに手を止めてシュミットに向き直った。
「そういえば、シュミット。」
「なんだ。」
「あなたこんなところにも付けてくれていたんですね。」
にっこりと。
それはそれは綺麗に笑いながら、エーリッヒが自分の顎の下、先刻ミハエルに口付けられた場所を示す。シュミットは口の端を引きつらせた。
「いや、なんだ、その、…虫さされ、じゃないのか。」
「なるほど、心当たりはおありでないと。」
「…………ゴメンナサイ。」
すっ、と目を細められて、シュミットはその視線に両手を上げた。エーリッヒはやっぱり。と呟く。机の引き出しから手鏡を取り出すと、くいと顎を上げてそこを確認する。濃い色の肌に、赤くまるい痕。見える場所にはつけないでと、行為のたびエーリッヒはシュミットに請うのに、シュミットはエーリッヒとは逆に見えるところにつけたがった。それがどういう意味を持つのか、エーリッヒは知っていた。知っていたけれど、他人に知られるにはあまりにも背徳的な関係だから。
たとえその痕がエーリッヒにとってどれだけ愛しいものであったとしても、他人に見られることはエーリッヒには遠慮したいことだった。
ぐい、と手鏡を持っていた手を掴まれて、エーリッヒはシュミットに向き直らされた。
そうして。
「んっ…シュミット。」
顎の下、今しがた確認したそこに、シュミットは口付ける。赤い舌でそっと舐める場所は、そこからゆっくりと顎へ、そうして唇へ。
「…ん…。」
何度か角度を変えてついばみ、そっと唇を舌でなぞる。やさしく開かれたそこに舌先をねじ込んで、シュミットはエーリッヒの歯列をなぞった。んん、とくぐもった声がエーリッヒから漏れる。ざらついた舌のかたちを確かめるようになぞり、そのまま絡ませて吸い上げると、ぴくんとエーリッヒの体が震えた。そっと顔を離すと、エーリッヒは真っ赤になった顔を隠すように俯いた。
「あなたは…本当に…。」
逆光のシュミットの表情ははっきりとしない。だけれどすこし意地悪に、笑っているに違いない。くすくす、シュミットの笑い声が聞こえた。
「消毒、な。」
「そんな必要、だいたいミハエルは、」
「あとで聞くよ。」
ぺろりと耳たぶを舐められて、エーリッヒはふ、と息を吐いた。そうして、ちいさな声で「仕方のないひとですね。」と呟いて、シュミットの背中に腕を回した。
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