第一夜



 こんな夢を見た。


 俺はベルクカイザーを走らせていた。たった一人で。

見慣れたアイゼンヴォルフのホームコースは、
周回するはずなのに行っても行ってもスタートに戻れなかった。

 このまま100年走っていれば、仲間のもとに戻れるのだと、俺は知っていた。

ベルクカイザーもそれを知っていた。いや、いつだったか、
それを俺に教えたのはこのマシンだった。

 俺たちは走り続けた。

 やがて、周りの景色が変わった。海が見えた。それが祖国の海なのか、
それとも別の国の海なのか、そんなことはどうでもいいことだった。

 俺のマシンがスピードをあげた。俺は遅れないように、インラインローラーで
海に飛び込んだ。

 海の中は七色にきらきらしていた。俺は、歩くような泳ぐような、感覚で、
きらきらと濡れたように光る海を渡っていった。

 ベルクカイザーのタイヤの跡がずっと続いていた。二本のくぼみをマシンは長く引きつれていた。

俺はその隣を走りながら、同時にその跡を見ていた。

海の水の上の方から、昔のマシンが落ちてきた。

ベルクカイザー以前に使っていたベルクマッセ--そしてそれ以前の、
市販のものを俺だけのセッティングで作り上げたマシン。

 それらは俺たちの前に落ちて、落ちたまま走り出した。タイヤの跡は見えない。

俺のベルクカイザーは、二つのマシンにぐんぐん追い付き、追い越した。

 振り返ると、俺の昔のマシンたちはいなかった。ベルクカイザーの足跡だけが、
きらきら光る水の中できらきらしていた。

 太陽が沈み、また上がった。月が出て、また沈んだ。

何日間経ったのか覚えていられないほどの時間、
俺たちはただ走り続けた。

 やがて岸に上がった。

雨が降っていた。

そこは一面の花畑だった。

ラベンダー、黄水仙、それからよく判らないピンクの丸い花。

 一際背の高い向日葵が、雨を受けて大輪の花をふらふら揺らしていた。

 ベルクカイザーは花畑の中を、向日葵の元まで走って止まった。

俺はその向日葵に歩み寄り、薄い鮮やかな色の花弁の一枚に唇を押し当て、
緑の茎の足元に傅いた。

俺の唇を、冷たい雫が濡らした。

 周りの花々もきっとこうして、この誰をも惹きつける花に
忠誠を誓ったのだろうと思った。

 俺がもう一度向日葵を見上げると、眩しい黄金色の背後に、暁の星がたった一つ瞬いていた。

100年はもう経っていたのだと、そのとき初めて気が付いた。



 夏目漱石『夢十夜』パロディ第一夜。
 あのSSは本当はエロいのだということを大学でいっぱい学んだ。
ベルクアドベルクでミハアドミハでアイゼン仲良し。全体趣味☆
ラベンダーと黄水仙と、ピンクい花(チャイブス=葱の一種)は、
どれも花言葉が『忠誠』らしいです。花言葉なんていろいろ変わりますが。


モドル