第十夜



 ミハエルが天使に浚われてから7日目の晩にふわりと帰ってきて、
 今は静かに、深い眠りについていると言ってへスラーが知らせに来た。

 小柄で色が白くて、我儘な俺たちの王様には、このところ暫くおかしな
 ことにハマっていた。

 宿舎の窓からぼんやりと外を眺めて、道を行く人々の死相を読んでいた。

「ね、あのひともうすぐ死んじゃうよ」

「…あの人、これから車にはねられちゃうね」

 宿舎の前にはこぢんまりとした果物屋があって、あまり人が通らないときは、
 ミハエルは道を見ないで果物を眺めていた。

 いろんな果物があった。

 イチゴ、チェリー、アプリコット、リンゴ、洋ナシ、ラズベリー、木苺、メロン。

 無造作に並べられた色とりどりの果物を見て、ミハエルはよく、綺麗だよね、と言う。

 そうして、何時間もぼうっとそれを見ている。

 でも、時々果物を買ってきても、ミハエルはあまり嬉しそうな顔をしない。

 ある時にミハエルが果物を眺めていると、6階の窓をコンコンと叩く者がいた。

 ミハエルが顔を上げると、天使がにこりと微笑んだ。

 ミハエルは疑問も抱かずに天使の手を取り、そのまま空へと舞い上がった。

 それきり帰ってこなかった。

 いくらミハエルとはいえ、それじゃあ帰ってこないかもしれない。

 いや、ミハエルだからこそ。

 シュミットやエーリッヒたちが騒ぎ出していると、7日目の夜になってふわりと帰ってきた。

 そこでシュミットが、どこへ行っておられたんです、と聞くと、ミハエルは真っ直ぐに
 上を指した。

 天使の手を取り、天国を一足先に見学してきたのだと言う。

 光が生まれ、闇が生まれ、海と陸が生まれ、生き物が生まれていく様を、ミハエルは
 6日間の間見ていたのだと言った。

 エーリッヒは微笑んで、おかえりなさい、とミハエルを抱きしめた。

 ミハエルは嬉しそうにエーリッヒに抱きついて、ただいまを言わないままに倒れた。

 へスラーは、ミハエルの話をここまでして、ミハエルはあまりにも空に近すぎたな、と呟いた。

 俺も、ずっとそう思っていた。

 アイゼンヴォルフはどうなるだろう、とヘスラーは言った。

 ミハエルがいなくなって、どうなるだろう、と言った。


 ミハエルが夭折するネタが好きっぽいですね。
 ミハエル好きです



モドル