第五夜
こんな夢を見た。
俺は中世の騎士だった。
王を守るために戦っていたが、敵に捕まって敵の王の前に引き据えられている。
敵の王という男は金の髪をしていて、甲冑にバイザーが不釣り合いだった。
床に膝を折っている俺は、高い場所に据えられた椅子に座っている男を見上げて睨んでいた。
両手は背中で、手首を戒められていた。
男は俺に、「生きるか、死ぬか」と聞いた。俺は小さく「それが問題だ」と呟いた。
生きるとは降参するという意味で、死ぬとは屈服しないということだった。
この戦いの勝敗はもはや明らかだった。
俺は迷わず「死ぬ」と言った。
敵の王は腰に下げていた剣をすらりと引き抜いた。
冷たく光る刀身が、俺の首筋できらりと鳴った。
俺は待て、と言った。
男は剣を腰の鞘に戻した。
この時代にも恋はあった。俺は愛した女に最後に会いたいと言った。
敵の王は、一番鶏が鳴くまでは待ってやると言った。
一番鶏が鳴くと共に、俺の首は地に落ちることになる。
俺は女を待った。
鯨油で燃えるランプが、ゆらゆらと頼りなげに瞬いていた。
遠くで戦いの声が聞こえるような気がした。
この時女は、馬を小屋から引き出していた。
真っ白なよく引き締まった駿馬だ。
鬣を三度撫でて、女はその背にひらりと飛び乗った。鞍も鐙もつけていない裸馬だった。
長く白い足で太腹を蹴ると、馬は駆け出した。
馬は、蹄の音が宙でするくらい早く駆けた。
女の三つ編みが風の中で鞭のように踊った。
女が敵の領土の真近くにさしかかったとき、一番鶏が高く時を告げた。
女はスピードを上げた。
また、朝が知らされた。
あっ、と女は叫んだ。馬が岩に、強く一歩を叩きつけて前へと崩れ落ちた。
岩の向こうは深い淵だった。
この時の蹄の跡は、今もそこに残っている。
鶏の鳴き真似をしたのはセイレーンだった。
蹄の跡が岩に残っている限り、セイレーンは俺の仇だ。
第五夜。
ストーリーは原文とほとんど変わっていません。
私が変えているのは主に東洋的→西洋的。
今回中世騎士設定に激しく萌。
アドマル! アドマル!!!
モドル