シュミットは暗闇を前に苦笑を禁じ得なかった。
…まったく、どうしてこんなことになったんだか。
きっかけは些細なことだったはずだ。自分の口から出た、いつもの調子のキザったらしい口説き文句。だが、それを気軽に受け入れられるほど、彼の親友兼恋人は素直ではないことを、シュミットは迂闊にも失念していた。…いや、判っていたけれど勝手に口が動いていた、というのが正しいのかもしれない。
「…いいですよ」
背後から聞こえる声に、シュミットは肩を竦める。
「いいって、それは襲ってもいいと言っているのか?」
「なっ…!」
エーリッヒは絶句したが、シュミットの指摘は強ち間違いでもない。
エーリッヒが頬を染めて唇を噛み、(シュミットから見れば)この上なく扇情的な瞳で睨んでいるのが目隠し越しに用意に想像できて、思わず頬が弛む。
…そう、目隠し越しに。
シュミットは今、愛しい恋人の手によって目隠しをされた状態にあった。
シュミットがそんな状態に陥った原因は、彼自身の発言に端を発する。
午前中、白昼にもかかわらず明確な意図をもって触れてきたシュミットに対して抵抗したエーリッヒへの、甘いセリフ。
『抵抗しても無駄だよ、エーリッヒ。お前の体なら余すところなく愛したんだから。たとえ目隠しをしていたとしても、陥落させる自信があるよ』
弱い脇腹を擽りながら、耳元に囁かれて、エーリッヒは熱に浮かされる寸前の、危うい光を隠した瞳でシュミットを睨んだ。
それもまたひどく色を含んでいて、シュミットのなけなしの理性が焼き切れそうになった瞬間。
『…本当ですね?』
密着していた体を強く押し戻されて、眉を寄せながらもああ、と頷いたシュミットに。
『…なら、証拠をみせてください』
僕を愛しているのなら。
今夜、と続けた彼の言葉は、逃げるための言い訳ではない熱を含んでいた。剣呑な視線は挑戦状だ。
くす、と笑いながら、シュミットは乱したエーリッヒのシャツから覗く、褐色の肌に唇を寄せた。
『望むところだ。…約束だからな?』
鎖骨の下に、印を刻んだ。
Liebe macht blind !
「…なあ、エーリッヒ」
突然くるりと振り返ったシュミットに、エーリッヒは驚いて半歩下がった。拍子に、こつりと踵がベッドに当たる。思わず足元を確認して、エーリッヒはもう一度シュミットに視線を戻した。目隠しのためにエーリッヒが見えないシュミットは、そのまま言葉を続ける。
「やっぱりいつものように、すべて私がやらなきゃダメかな?」
「すべて…って?」
「ん? 優しくキスしてベッドまでエスコート、それから可愛い反応を返してくれるお前に丁寧に愛撫を施しながら服を脱が…」
「もっ、もう十分です!止めてください!」
咄咄といつもの、情事に至るまでの流れを説明しだすシュミットを、エーリッヒは止めた。
顔を真っ赤にしている彼が容易に目蓋の裏に浮かぶ。思わずくすくすと笑い声をたてたシュミットに、エーリッヒは眉を寄せた。
「…僕に何をしろと言うんですか?」
「いや別に、何を期待したわけでもないさ。ただ、甘えていいなら服くらい自分で脱いでほしいかな、と」
それこそ冗談混じりに言ってみる。この行為自体、あまり良しとは思っていない彼が、まさか自分から脱いでくれるなんて思っていない。ただ、いつものくせで軽くからかってみたくなっただけだ。何度何回肌を重ねても、けして汚れない彼に焦燥と苛立ちを隠したままに。
黙り込んでしまった彼に、冗談だよ、と口を開こうとした矢先。
「…判りました」
小さな声で、エーリッヒが答えた。
開いた口が塞がらない、とはまさにこういうことを言うのだろう。シュミットがぽかんとしている前で、エーリッヒは上着を脱いでベッドの端に落とした。
次いでベルトに手をかけて、ふとシュミットがまだ茫然と自分を見つめている(?)ことに気付く。
「…シュミット?」
「え? あぁうん、何?」
「…向こうを向いていてくれませんか?」
その要望に、シュミットは大げさでなく吹き出した。
「…目隠ししてるのに?」
「………」
言った本人もその矛盾には気付いているのだろう、返ってきたのは気まずそうな沈黙。
気持ちはわからなくもない。いつもはシュミットにすっかり感じさせられて、訳も判らない間に脱がされているのだから。改めて、恋人の前で脱ぐなどというのは恥ずかしいのだろう。
「風呂の時には気にせず脱いでるのに?」
それにしても、とシュミットは思う。本当に、どこまで無垢でいるつもりなのだろうか、彼は。
幾夜となく温もりを分かち合ったのだ、肌を曝すことなど、とうに慣れてしまっていてもおかしくないのに。
「これからもっと、すごいことするのに?」
「それでもっ…」
それでも、彼はけして堕ちない。
反論しかけたエーリッヒは、言葉を途中で切った。
続きは聞こえる事無く、カチャカチャと僅かな金属音が引き継ぐ。
…そんなに顔に出ていたのだろうか。
シュミットはポーカーフェイスには自信があった。どんな感情でも包み隠して相手に悟られない自信が。
…やはり、エーリッヒ相手に隠し事は通用しない、か。
どこか浮かれる気分を抑えきれないまま、シュミットは再びエーリッヒに背を向けて、自分のシャツのボタンに手を掛けた。
…しかし、エーリッヒは今、どんな顔をして服を脱いでいるのだろう。目隠しをしていることや、後ろを向いてしまっていることが勿体なくてしかたない。きっと、ものすごく可愛い表情をしているのだろうに。
「…なんですか?」
惜しいな、と小さく呟いたのが聞こえたのか、エーリッヒが振り向く。
そして、彼もまた背中を向けている事に気づいてエーリッヒは思わず笑みを零した。
目隠ししていたとしても、どうしても彼の視線を感じてしまう。いつも自分を翻弄する彼の視線を思い出してしまう。だから、背を向けて欲しいと頼んだ。先の彼の指摘はもっともで、自分でもそれがわかっていたから、せめてもと思って自分だけでも彼に背を向けたのに。
どれだけ矛盾を孕んでいても、理不尽だとしても、彼は彼の信念に背かない限り、エーリッヒの希望を叶えようとしてくれる。
「いや、なんでもない……痛ッ!」
「どうしたんですか?」
「いや…指を突いた…」
人差し指の先をぺろり、と舐めて見せる。
その姿が妙に艶を持っていて、エーリッヒは思えず鼓動を早める。
「突いた…って、どこで…」
「…ベルトの金具…」
「…………そういうところ不器用なんですよね、貴方は」
エーリッヒの言い方が気に食わなかったのか、シュミットは仕方がないだろう、と憮然と言い放つ。
「見えないんだからな」
「…はいはい」
す、とエーリッヒの気配が近づく。
シュミットが疑問符を消し終わらないうちに、自分の腰の辺りで何かが蠢く。
「…ッ、エーリッヒ!?」
「じっとしててください、外しにくくなりますから」
シュミットの前に膝をついて、エーリッヒはシュミットのベルトを外してやる。
普段なら絶対にありえないシチュエーションに、シュミットの背筋を何かが這い登る。
「…エーリッヒ……そんなにしたかった?」
………………………………………………。
「………………もういいです。自分でしてください」
「あっごめん嘘。嘘ですごめんなさい。愛してるよエーリッヒ」
エーリッヒが離れるのを悟って、シュミットが慌てて謝る。
こんな風に簡単に謝る人だったかな、と自分の記憶を手繰りながら、エーリッヒは溜め息を吐いた。ただ、表情はどこまでも優しい。彼が簡単に謝罪の言葉を口に上らせるのは、自分に対してだけだと知っているから。
……いや、現アイゼンヴォルフリーダーにも、かな。
「最後の愛してる、は必要ないでしょう」
「そうか? 愛情表現は大切だと思って」
エーリッヒのいるだろうと思われる辺りに見等をつけて腕を伸ばす。
目測は僅かに外れて、シュミットの手はエーリッヒの横5センチの空を切る。
「…僕のことならなんでも知っているのではなかったのですか?」
シュミットが言い訳に口を開く前に、行き場をなくした手をエーリッヒが捕らえる。
「ここ、ですよ」
柔らかい頬へと手を先導される。
どんな言葉より、行為より、そのぬくもりに安心させられる。させられてきた。そして、これからも。
「うん。…ごめん」
引き寄せられるように顔を近づけると、エーリッヒから唇を重ねてくれる。
目隠しというのもそう悪くないかもしれない、と考えているうちに、唇は離れた。
「どうして謝るんですか?」
「何でも知ってると言ったくせに、ちっとも判っていなかったから」
お前は嘘が嫌いだろう? と小首を傾げると、耳に小さく笑い声が届いた。
「超能力者じゃあるまいし、目隠しをしたまますべてが判るはずないじゃないですか。
それに、……貴方が知っていると言ったのは…僕のこと、でしょう…」
語尾は消え入るようだったが、シュミットは正確に聞き取ってエーリッヒの身体を抱きしめた。
「うん。…愛しているよ、エーリッヒ」
エーリッヒの頬を両手で挟んで、優しくキスをする。
薄く開いた唇の中に舌を滑り込ませて、上顎を擽ると、くぐもった声が微かに聞こえる。そのままぎこちなく応えてくれる舌を絡め取って吸い上げる。エーリッヒから力が抜けていくのを感じ取って、シュミットは目算をつけておいたベッドの方向へエーリッヒを押し倒した。
「…ッ!」
いつもよりも数段強い衝撃を背中に受けて、エーリッヒは一瞬息を詰まらせる。
ベッドのスプリングに拒絶されたような感触をシュミットも受けて、眉を寄せた。
いつも無意識にやっているつもりなのに、どうやら上手な力加減でベッドに受け止めさせる、という行為はかなりの部分、視覚に頼っているところがあるらしい。
「危ないじゃないですか…! 舌を噛んだらどうするん……っん、」
抗議の声を唇ごと奪う。
「んッ…ふ…」
美味しいものを楽しむように、ゆっくりと時間をかけてエーリッヒの口腔を貧る。
ちゅ、と音をたてて名残惜しそうに唇を離すと、はぁ…と熱い吐息が漏れた。
「…キスだけで感じているのか?」
だけ、というには余りに濃厚なキスだったが、くすくすと笑いながら、反応を示し始めている自身に触れられて、エーリッヒは羞恥に頬を染める。
「これなら、最初から目隠しの必要なんてないんじゃないか。キスするだけで落ちてくれるなら誰でも…」
「…貴方は、」
相手の、見えない瞳を睨み付ける。
…勝手なことを言って。
「僕が、誰にキスをされてもこんなふうになると思っているんですか?」
僕を狂わせることができるのは、貴方だけなのに。
言葉の意味に気がついて、シュミットは動きを止めた。
「……お前ってさ、時々……」
妙に大胆なことを口走る。いつもは素直な言葉などほとんど聞かせてくれないくせに。時々、不意打ちをくわすように嬉しいことを言ってくれる。
「…そうだな。お前をこんなふうにできるのは私だけだ」
一度触れてしまえば、あとは見えていようがいまいが関係ない。いつもどおりに指を、手を、唇をエーリッヒの体のいたるところに滑らせてゆけばいい。甘い吐息が、彼が感じていることを知らせてくれる。そのまま掌で脇腹を擽ると、ひくりと喉が鳴った。
胸の突起を舐めなぶりながら、緩やかに勃ち上がり始めているエーリッヒ自身を握り込むと、彼が息を呑むのが判った。
「本当に感じやすいね、お前は…。可愛いよ」
顔をずらして先端に口付ける。
「あ…しゅみ、」
抗議のような、続きを促すような声に誘われるままに、シュミットはエーリッヒ自身を口に含んだ。
「…あッ…!」
ビクン、と跳ねた身体を自らの身体で押さえ付けて、刺激を続ける。
括れを唇で締め付けると、透明な液体が先端から滲み出す。ちゅる、とわざと音をたててそれを吸ってやると、頭上で声を殺したのが判った。
「声…我慢しなくていいよ……」
ぺろりと自身を舐めながら言う。
目隠しで見えないと判っていながら、エーリッヒは首を横に振って拒絶を示す。
それを予想していたように、シュミットは愛撫を再開した。
鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス。
いつかの日本文化の授業で聞いた覚えがあるようなないような詩を胸中に思い出す。声を聞かせてくれないならば、我慢できなくなるくらいに感じさせてしまえばいいだけだ。なかなか上げない声を引き出すことも、弱い場所を見つけ出すことも、どちらも本気でドキドキする。背徳的だと知りつつも、抑えられない。
……ゆきすぎたくらいに自分を律する傾向にあるエーリッヒには気の毒だけれど、こんな私を恋人に選んでくれたのは外ならぬ彼自身だし。
「少しは諦めてもらわないとな…」
自業自得だろう? と口に含んだまま尋ねる。
シュミットの唾液とエーリッヒの先走りの液の混じったものが、トロリと自身を伝ってゆく。
その吐息や感触にすら、昇ぶったエーリッヒは感じてしまう。下肢に顔を埋めている恋人の髪に指を絡めて引っぱると、痛いじゃないか、と苦笑と共に抗議の声。実際はそんなに痛くはない。すでにエーリッヒにはほとんど力など入らない状態なのだから。
伝い落ちた液体をエーリッヒの蕾に塗り込めて、ちゅぷ、と中指の先を埋め込むと、エーリッヒから抗議らしい声が上がった。
「止めてほしいわけじゃないくせに、本当に素直じゃないな……」
呟いて指を引き抜き、口の中で震えているそれを一際強く吸い上げてやる。
「んぅゥ−−ッ……!!」
ビクビクっとエーリッヒの身体が痙攣して、熱い精がシュミットの口に放たれる。いつもどおりそれを嚥下して、シュミットは内股に口付ける。敏感な肌がピクンと反応を返してくるのが楽しくて、いくつもの所有印を綺麗な脚に刻む。
「ちょっ…シュミット!そんなところ…!」
暫くは、達した余韻と触れてくる唇の優しさにされるがままにしていたが、膝あたりまでそれが及ぶと流石に黙っていられなくなる。
体育ができなくなるじゃないか、とどこかズレた危機感で思う。
「ん…?どこか悪いところに付けてしまったか?すまないな、よく見えないんだ」
エーリッヒの脚から顔を上げて、シュミットは悪びれることなく言い放つ。
「……ウソつき」
「酷いな、お前に嘘なんか吐かないよ」
「…それ自体、もうウソですね」
嘘の嫌いなエーリッヒの顎に、シュミットは見当をつけてキスをする。果たしてシュミットの唇は、思惑どおりの場所に当たる。
「…訂正しよう。必要以上には嘘など吐かない。だから他の人間には見せないくらい、お前の前では素直だろう?」
唇の端にキスを落とされ、エーリッヒはやはりこの人には敵わない、と思う。
愛してる、とお決まりの台詞を囁かれて、エーリッヒは小さな声で、僕もです、と応える。目が見えないことでよけいに研ぎ澄まされたシュミットの聴覚に甘く響く、低くて優しい声。
薄く開いた唇に口付け、舌を滑り込ませる。ぎこちなくでも応えてくれるのが嬉しくて、ことさらにゆっくり、深くまで求める。
シュミットの指が胸の突起に触れると、合わせた唇の奥から吐息が聞こえた。
片手で硬くなっているそれを弄びながら、もう片方の手をエーリッヒの双丘の奥へと忍ばせる。
「ヤっ…」
「嫌?本当に?」
嘘吐き、と先の意趣返しに笑い、爪の先で入口を突くと、ひくりとその場所がうごめいた。
「…疼くんだろう?ココが…」
中へと潜り込ませると、刺激を求めるようにシュミットの指を締め付ける。
シュミットが教え込んだ淫らな欲望に、エーリッヒの身体は正直だった。
「なぁ…欲しいんだろう…?」
「…知りません…ッ」
あくまで強情に快楽を否定する。シュミットはそうか…、と残念そうに息を落とした。眉間にキスを落とし、シュミットは囁く。
「…なぁ、欲しいって言ってくれないか…?」
「……シュミット…?」
どこかに哀願の響きすらあるシュミットの声に、エーリッヒはふと表情を柔らげる。
「…どうして、そんなことにこだわるんです…?」
「…うん。顔、見えないからさ……」
「…顔…?」
そっと、シュミットは片手でエーリッヒの頬に触れた。
「…いつもなら…どんなに素直になってくれなくても、顔が見えるから…感じてくれていることが判る。けれど、今日は……」
不安なんだ…と言葉を次ぐ。
「私ばかり、楽しんでるんじゃないかと。お前が、拒絶に表情を歪ませているんじゃないかと…」
「……馬鹿ですね」
腕を延ばし、シュミットの頭を抱き寄せる。視界の閉ざされた彼を驚かさないように、ゆっくりと。
「…そんなに、自分に自信がないんですか?」
頬に触れるエーリッヒの体温に、シュミットは体重を預けた。
「お前の前じゃ、そんなもの簡単になくなってしまう。……私らしくないだろう?」
エーリッヒの笑いをどう取ったのか、シュミットは自嘲に唇を歪ませた。エーリッヒはそっとシュミットの髪を梳く。
「…そんな心配、…必要ありませんよシュミット…。…僕は、いつも……」
「……エーリッヒ……?」
嬉しい告白が聞けるのか、と期待した矢先に言葉が途切れる。先を促そうかとも思ったが、シュミットは思い止まってエーリッヒの胸にキスをした。自ら止めようとした続きを、もう一度請うように。
答えの代わりに、シュミットの背に回した腕に力が込められる。
ありがとう、と言って、シュミットはエーリッヒの中に埋めた指を動かす。突然の刺激に、エーリッヒはびくりと身を強張らせた。
宥めるようにエーリッヒの身体にキスをしながら、円を描くように解きほぐしていく。
「……ュミット……」
「…ん?どうした…?」
指を増やしたところで名を呼ばれ、辛いのかとシュミットは優しく問う。
「……欲しい……」
「……ッ?!」
「あッ!」
驚いた拍子に、シュミットの指が規則に外れる動きをしたらしく、エーリッヒから高い声が上がる。
「っ悪い!だってお前がいきなり……!」
常にはないシュミットの慌てぶりが面白かったのか、エーリッヒは微かに頬を緩ませる。
「…これでいいんでしょう?」
……ああ、また私は甘やかされている。
エーリッヒの額に愛おしげにキスをして、シュミットは指を引き抜く。エーリッヒの腿を持ち上げるように曲げて、猛っている己の雄をそこに宛てがう。
「…息、吐いてて…」
熱い吐息と共に囁いて、シュミットは腰を進めた。
「……ん…っ…」
きゅ、と下唇を噛んで過ぎる刺激に耐えようとする姿は、シュミットにはいつもひどく淫靡に見えた。今日は見えないけれど、声や空気で感覚的に判る。いつもの表情。
やはりまだ早かったか、エーリッヒのそこはシュミットを痛いほど締め付ける。シュミットはエーリッヒの前をやんわりと握り込む。
「…あッ…!」
エーリッヒの締め付けが緩んだ一瞬に、シュミットは一気に埋め込んだ。
「ンぅ…ッ!」
「ね…声、抑えないで…今日だけでいいから……」
引き結ばれた唇を溶かすように、熱い唇を重ねる。背中に痛みを感じて、シュミットはエーリッヒを至近距離から見つめた。いつもはシュミットを傷つけると嫌がって、エーリッヒは絶対に爪を立てようとしないのに。
「……なら、貴方も今日だけ…我慢して下さい」
「…これじゃ不公平じゃないか? 私のは我慢にもならない。お前につけられる爪痕なんて…」
宝物だよ、と言ったシュミットに、エーリッヒは馬鹿ですか、と息を落とす。
「色気がないな、エーリッヒ?可愛くないことを言うなら、…こうだぞ」
「ひァっ……!」
突然腰を突き動かされて、エーリッヒは声を引き出される。
「……良い声だ」
そのまま、シュミットは強く腰を動かす。その激しさについていけず、エーリッヒは甘い声を上げながらシュミットにしがみ付く。
「…エーリッヒ……良い…?」
「ッ…あ、ふ……イ…」
「……うん、一緒に…」
開放を促すように、シュミットはぎりぎりまで引き抜いた楔を深く突き入れる。
「んあぁ……ッ!」
「…く……ッ!」
ほぼ同時に絶頂を向かえ、シュミットは楔を引き抜いてエーリッヒに覆いかぶさるようにベッドに倒れ込む。その身体を抱きしめて、エーリッヒは額にキスをして目隠しを外してやる。
白い布の下から覗いた紫の瞳は、ひどく満足げに微笑んでいた。
「……なぁ、満足できた?」
昼間につけた鎖骨下の跡に唇で触れながら、シュミットは尋ねる。
こんな内容、エーリッヒは応えてくれないと、知っていての質問。
「目隠しをしていても、お前を十分に楽しませることができた?」
エーリッヒは眉間に皺を寄せて、シュミットを睨んでいる。だが、その目元まで赤く染めていては意味がない。
首筋に軽く歯を立てながら、シュミットは言葉を続ける。
「もしかして、目隠ししてたほうが良かったりした? …なぁ、目隠しなしでもう一度しようか? どっちがいいか、比べてみる目的で」
「…もう十分です」
首元に顔を埋めたまま囁くシュミットの肩をやんわりと押し返して、エーリッヒは低い声で拒絶を示す。それがシュミットの知っているエーリッヒらしすぎて、シュミットはくすくす笑う。
「…ね、愛しているよエーリッヒ。この髪も瞳も心も声も。…もちろん、身体も。お前を形作るすべてのものが、私を狂わせていく…」
情熱的なシュミットの口説き文句に、エーリッヒは呆れたような溜め息を落とす。
エーリッヒが口を開く前に、シュミットは触れるだけのキスを唇にする。
「軽々しく愛を囁く私の言葉だ、信じてもらえなくても良い。だけれど、否定だけはしないで欲しい。……本気だから」
「否定するつもりなんて、ありませんよ」
てっきりいい加減にしてください、と言われるとばかり思っていたシュミットは、エーリッヒの視線が存外優しい事に目を丸くする。
確かにシュミットの言葉はエーリッヒが信じるには軽すぎるかもしれないが、言葉を補って余りあるほどに、シュミットは行動に示してくれる。…安心させてくれる。
まだ驚きの中にいるシュミットの首に腕を回し、引き寄せて唇を重ねる。
「…だから、信じていさせてくださいね」
「当然だ」
ようやっと我に返ったシュミットが、彼らしい自信に満ちた笑みを浮かべる。
…やっぱり彼には、この笑みが一番似合っていると、思う。
強く抱きしめてくれる腕に甘えるように、エーリッヒは力を抜いて目を閉じた。
見えるか見えないかなど、ほんの些細な問題でしかない。
もちろん、とても綺麗な彼の姿が見えないのは非常にもったいないとは思うけれど。
でも、彼を感じる以外の感覚なんて不必要なんじゃないかと時々本気で考える。
ほら、よく言うじゃないか。
「恋は盲目」って、そういうことだろう?
<ENDE>
シュミエリ目隠しプレイ(笑)。
シュミットさんがあほ子になってる気がせんでもないですが。それも良し!(ええんか)
三ヶ月遅れて、さなちゃんお誕生日おめでとう☆
モドル
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