![]() |
![]() |
ほんの少しでいいから、頼ってください。 NEWS (あ、痛…) かかとに擦れる様な痛みを感じ、シナモンは一瞬顔をゆがめた。 「どうしたのカヤ?」 すこし前を歩いていたバーニーが、歩みを止めたシナモンに気がついて振り向く。 シナモンはにこりと笑って、なんでもないぞな。と答えた。 明るく軽い感じのする笑顔は、 その場に立ち止まってしまった4人に同等に向けられていた。 前年のオーストラリア選手権を勝ち上がった国内の実力派レーサー4人と、 一度はアメリカチャンプにも輝いたことのある、帰国間もないオーストラリア国籍の リーダーで結成された、このチームの名は「ARブーメランズ」。 偶然にも5人ともがこの街…シドニーの出身だったというのに、 祖国の名を背負わされたのはどういうわけか。 疑問に明確な答えはなかった。 「さ、早く帰るきに!」 4人を促し、シナモンは前より少し早足に歩き出した。 この5人が揃っての練習はまだ数日しか行なっていない。 呼び出されて引き会わされたのもほんの一週間くらい前のことだ。 ただ、アメリカ帰りであるジムと、バーニー、シナモンは低学年のときには 同じ小学校に通っていた幼馴染であった。 残りの二人、ウィリーとローランはそれぞれ別の小学校らしいが、 出会ったその日にいたく意気投合したようだった。 勿論、ジムやシナモンも彼らとはすぐに打ち解け、 大人たちがほんのささやかにしていた懸念を粉々に打ち壊して、 彼らはお互い良き友達になったのであった。 それには当然、共通のホビー…ミニ四駆がおおきな役割をかっていた。 彼らは今、オペラ・ハウス近くの練習場から駅まで、 めいめいの家への帰路を辿ろうというところだった。 軽い足取りでバーニーとジムを追い抜く。 足を地面につけるたび、靴がかかとを擦り切っていく。 昨日買ってもらったばかりの靴は未だシナモンには馴染んでいなかった。 だが、シナモンはチームメイトに心配をかけたくなかった。 先頭からくるりと振り返り、わざと声高に元気良く、 今日の練習の成果だとか昨日のショッピングだとか、 とりとめもない話を皆に聞かせる。 ほんの短い付き合いの中でもシナモンのおしゃべり好きは 皆の知るところだったので(そしてシナモンのおしゃべりは けして不愉快に聞こえることはなかったので)、 4人は当然のようにそれを聞きながら歩を進めた。 と、ふいに、ぴたりとジムが足を止めた。 「ジャンケンするゾナ!」 どうした、と誰かが口を開く前に、ジムは叫んだ。 「…はぁ?!」 「負けたら罰ゲーム付きゼヨ! ほらジャンケン、ジャンケン!!」 突然のジムの言葉に、怪訝な声を上げたのは、 チーム内では最もジムと付き合いの長いバーニーだった。 「何考えてるのカヤ、ジム?」 その響きには、「どうせアンタが負けるんだぞ」という確信が、 昨日のおやつに食べたホットケーキに乗っていた生クリームよりも、 もっとたっぷりと含まれていた。 「今日こそ28連敗の雪辱を晴らしてやるキニ〜!」 ぶんぶん、と腕を振り回すジムは、何を隠そうここ2週間で28回、 バーニーやシナモンに負けていた。 ウィリーやローランを加えて行なった後半19回のジャンケンでも すべてに負けを喫し、彼は目下連敗記録を更新中であった。 ジムの運の悪いのは今に始まったことではない。 たまに、そうごくたま〜〜〜〜〜に、神の悪戯かそれとも哀れみか、 まぐれで勝つことはあるものの、それは朝食の卓上にベジマイトがない 確率よりも低かった。 ハァ〜〜、とバーニーは懲りない親友に溜め息を零す。 「負けても恨みっこなしだゼヨ」 「もちろんキニ! ほら、ウィリーもローランも、シナモンも早く!」 仕方ないなというように肩を竦めたウィリーに、 くすりとローランは笑みを零した。 「「「「「ジャーンケーン……」」」」」 おおきくて広くて、青い空と海に響く、元気な小学生の声が 道行く人々に微笑と元気を与えたのは言うまでもない。 「ジム、だいじょうぶかや?」 ふらふらと定まらないジムの足取りを心配して、シナモンは声をかけた。 結局、ジャンケンは見事なほど綺麗にジムが負けを喫し、 彼らの内では最も勝率の良いシナモンがその背に負ぶさって、駅までの 道を辿るという罰ゲームの只中にいた。 いくらシナモンが細くて軽いとは言っても、 ジムは人一人を背負って長い間歩くことのできるほど力が強いわけではない。 むしろ非力な類に入るジムの首筋は実際、真っ赤になってじんわりと汗ばんでいた。 「ぜぇんぜん、大丈夫だゼヨ!」 やせ我慢の上の言葉だと言うことは、声の響きや息遣いから明白なのに、 強がるようにおおきな声を上げる。 男の意地だ、とでも言わんばかりのジムの声に、 降りようか、ということもはばかられて、シナモンはなお十数メートルを ジムの背中に揺られた。 「…足、大丈夫カヤ」 ふいに声をかけられて、シナモンは驚いてびくりと身を震わせた。 「…なんの、ことかや?」 平静を装った、さりげない調子のシナモンに、 ジムの背中が細かく震えた。 笑っているのだけれど、しんどくて声が出ないような振るえだった。 「足、痛いんゾナ? 隠さなくていいキニ」 歩みの遅いジムをおいて歩いていた3人は、少し離れたところに立ち止まって 笑いながら二人を待っている。 冗談やからかい半分の野次が彼らから発せられていたが、 それはシナモンには届かなかった。 「…どうして判ったきに?」 「そんなの、見てたら判るゼヨ」 当然だ、という風に、ジムは大きな鼻息をふぅん、と吐き出した。 「だから、いきなりジャンケンしようなんて言い出したのかや? こうなるって思って? わたしが負けてたらどうするつもりだったぜよ」 「でも、今実際にシナモンは俺におぶさってるキニ。 すんだことは気にしないゼヨ」 なにそれ、とシナモンはくすくす笑った。 それからまた、沈黙の内に数メートル、進んだ。 「…ありがとう、ジム」 背中から聞こえた小さな感謝の言葉に、 ジムはぷるぷると首を振った。 「…そんなの、気にしなくていいゼヨ。 ねぇシナモン、俺じゃ頼りにならないかもしれないけれど。 でも、…こうやってすこしでもシナモンを助けることもできるゾナ。 だから、…だからちょっとだけでいいから、頼ってほしいゼヨ 痛いこととか、苦しいこととか、我慢せずに言ってほしいゼヨ。 シナモンが痛かったり苦しかったりするのを隠されたら、 俺はもっともっと痛くて苦しいゼヨ」 「…うん」 ジムの首に回した腕に力を込めて、シナモンはぎゅうとジムに抱きついた。 苦しいゾナ、シナモンというジムの声が、 あせっていたのはきっと半分は苦しい訳ではなく。 やっとおいついたチームリーダーの肩を叩いたり、 シナモンにジム酔いしていないかと訪ねたりしてくるメンバーたちと ふざけあいながら、二人は誰にも気づかれないくらい少しだけ見つめあって、 子供らしい笑顔を浮かべた。 僕だって頭ン中ヒーロー描いて 憧れてくやしくって 君だけ笑わせる力でいいんだよ ポーズ決めたら変身できないかなぁ 余計なことで余計なものを 思い出してうろたえるより 微々たる夢なんかを過剰に 描いてそこからその誤差をちぢめてみたいんだ 僕だって頭ン中空想描いて 自由に空飛んでくんだ 君だけ乗せれる翼でいいんだよ 背中にスイッチは付いてないかなあ? <了> ジムシナ〜〜vv うーん、清純派イチャラブを考えるのは非常に難しい上に、 イメージとして浮かんだものを形にするのに非常な時間がかかります。 楽しいんですけどねー…。 私設定大量投入。 あと、この時期英語でしゃべっとるハズの彼らが土佐弁ではなかろうことは 十分に判っておりますゆえ平にご容赦(笑) <NEWS (特になし)> SURFACEの最新アルバム、「WARM」に入ってる中で、 SOSが一番元気付けられる曲デス。 可愛くて優しくて力及ばなくてもどかしい感じ(うわぁ…)。 モドル |
![]() |
![]() |