その後の『覚めない夢』


 カルロの部屋を出て、深々と冷え込む廊下を歩く事約3分。
 エーリッヒは、氷のように冷たくなった鉄のドアノブに手を掛けた。
 ほんの少し歩いただけなのに、エーリッヒの体は早くも熱を失いはじめている。
 早く体を暖めたいと思う反面、出かける前のシュミットとの言い合いが胸にのしかかって、
 すんなりとノブを回す事が出来ない。
 小さく息を吐き気持ちを整えると、ゆっくりと力を込める。
 いつもなら気にもならないノブの回る金属音に緊張しながら、
 エーリッヒは重い扉を開けた。
 時刻はまだ8時前だと言うのに室内は真っ暗で、エーリッヒは眉をひそめた。
 不振に思い耳をそばだてると、やっと聞こえるくらいの小さな寝息が聞こえた。
 安堵した後、シュミットを起こさないよう静かに電気のスイッチに手を伸ばす。
 パチッと言う音と共にぱっと部屋に灯りが広がる。
 辺りが鮮明になった瞬間、意外な光景にエーリッヒは目を疑った。
 なんと、シュミットが自分のベッドで眠っていたのだ。

 「ぅ・・・ん・・・。」

 シュミットが、眩しさに軽く身を捩りうっすらと瞳を開く。
 ゆっくりと、視線が自分の方に向けられる。
 真っすぐかち合う視線。
 ・・・二人の時が止まる事5秒。

 「なっ・・・なっ!?」

 シュミットは蛙のようにベッドから跳ね起きた。
 やっと状況を理解したのだろう。
 シュミットは親に悪事がバレた時の如く狼狽した。
 エーリッヒはその様子にため息を零す。

 「こっちが聞きたいですよ・・・。どうして貴方が僕のベッドで寝てるんですか?」
 「・・・それは、その・・・。・・・悪かったっ!」

 本当にすまなそうな表情で頭を下げられてしまい、エーリッヒは言葉を濁した。
 別に嫌なわけでも無かったのだが、多少潔癖の気のあるシュミットが
 他人のベッドに体を横たえると言う事は、
 長年の付き合いの中からも想像出来ない事だった。
 しかし、素直に謝られてしまってはそれ以上の追求も出来ず、
 エーリッヒは大人しく引き下がるしかなかった。

 「・・・シュミットはずるいですよ。」
  (そんな風にされたら、追求出来ないじゃないですか・・・。)

 ぽそっとこぼした不満に影響されたのか否かは分からないが、
 シュミットはぽつりぽつりと喋りはじめた。

 「・・・悔しかったんだ。」
 「え・・・?」

 意外な言葉に耳を疑う。

 「エーリッヒの一番の理解者は、ずっと変わる事無く自分なんだと思ってた。
 俺の声を振り切ってカルロの部屋に向かおうとするお前の後ろ姿を見たとき、
 それが全部勝手な思い込みだと分かって、 正直・・・悔しかった・・・。」
 「シュミット・・・。」
 「子供じみた独占欲に支配されたまま、気付いたらお前のベッドで眠ってたよ。」

 うなだれるシュミットの肩に手をあて、優しく微笑む。

 「勘違いなんかじゃありませんよ、シュミット。これからもずっと側にいてください・・・。
 貴方は僕の大切な人なんですから。」
 「エーリッヒ・・・。」

 呆れられるかも知れないと怯えていた自分が恥ずかしい、
 と思いながらもシュミットは表情を和らげた。
 どこからか良い匂いが漂ってくる。

 「夕飯、一緒に食べにいきませんか? 遅くなってしまいましたけど。」
 「・・・そうだな。」

 自分より少しだけ大きな背中を愛しそうに見つめ、シュミットは親友の名前を呼んだ。

 「エーリッヒ。」
 「なんですか?」
 「・・・・・・幸せになれよ、カルロと。」

 それは祝福では無かったけれど、真直ぐな言葉がとてもとても嬉しくて。
 エーリッヒはいつものように優しく瞳を細めた。
 だって、貴方はいつも当たり前のように隣に居てくれるから。
 例えそれが、愛じゃなくても恋じゃ無くても、貴方を必要としているのです。
 いつか、それぞれ別の道を歩き、結婚して子供が生まれても、きっと変わらない。
 お互い歳を取って、どちらかが先に死ぬような事があっても・・・
 貴方は、僕の大切な人だから。



 あさかみくり様のサイト、「レツゴー愛しちゃってる人のページ」で
以前私が頂いた『覚めない夢』の続きです。
カルロとエーリッヒの関係を良くは思えないけれど、
認めてしまわざるを得ないシュミットの内心葛藤が萌えデスvvv
エーリッヒも非常に可愛いvv 愛されていますなぁえへえへえへ。
一回のキリバンで素敵小説を二つもいただけるなんて、まさしく天恵でした☆
ありがとうございます〜vv
 そして、UPが遅くなって本当に大変申し訳アリマセンでした!!!




モドル?