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清々しい朝だった。魂が、新たなる誕生を果たしたかのような気分。 そういえば、昨夜はカンガルーに蹴り殺される夢を見た。 …気にしない。死の夢は新たなる出発を暗示する。悪い夢ではなかったのだ。 バーニーは、チームリビングへと続くドアを開けた。 「おはようゼヨ!」 元気な声で挨拶したバーニーに、先に起きていたローランが顔を上げる。 「おはようキニ」 ごく普通の、普段どおりの挨拶。 …あれ? 「あ…あのさ、今日…」 どきどきしながら、控えめに声をかけてみる。 ローランは首を左右に傾げてみせた。 「今日がどうかしたのカヤ?なにかあったかゼヨ」 「…なんでもないゼヨ…」 |
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ギルバート・バーニー 17歳の誕生日。 そうこうしているうちに、一人部屋を使っているシナモンが起床してきた。 「おはようぞな」 「おはようキニ」 シナモンならば自分に何か声を掛けてくれるのでは、とバーニーは期待した。 が。 「ジムはまだ寝てるのカヤ?」 くるりとリビングをひとわたり見渡し、シナモンが発した言葉は無情なものだった。 バーニーはがくりと肩を落とす。 「まだ…寝てるゼヨ…」 あまり格好いい見せ場こそないが皆に愛されているリーダーを ちょっと羨ましく思いながら、起こしてくるゼヨ…と、相部屋に戻るバーニー。 部屋のなかでは、チームリーダーが安らかな夢眠のなかでうなされていた。 「穴あきおたまは…穴あきおたまは嫌だゼヨ〜…」 ………。 どんな夢を見ているというのか、ジェームズ。 こう書くと、最近人気のファンタジー小説の主人公の父親のようだぜジム。 「ジム、朝だゼヨジム。起きるキニ」 ゆさゆさと彼の体を揺さ振る。ぅーん、うーんと唸り声。 「ジーム、朝だゼヨ!」 「かっ…かきたまぁぁああ!!」 絶叫しながら起き上がるジム。 驚いて、バーニーは尻餅を付いた。 「はぁ、はぁ、はぁ……あ、ギリー。おはようゼヨ」 「あ…ああうん、おはたま」 …おはようとかきたまが混ざった。 「あ、ギリー、今日…」 「え、あ、うん、ジム」 やっと覚えててくれる人がいた!とバーニーは感涙にむせばんばかりだった。 が。 「………」 「………ジム?」 突然電池が切れたように活動停止してしまったジム。 「あ、おぅあ、うあ、な、なんだゼヨギリー」 「いや…それはこっちの台詞キニ…」 ジムはぶるぶるぶる、と頭を振った。 「なぁーんでもないゼヨ!今日はシナモンと買物にいくキニ、それだけだゼヨ!」 ふぅ、とため息を付き、肩を落としてバーニーは部屋を出ていく。 あとに残されたジムから零れた、安堵の吐息ひとつ。 「…今日? 10月29日だゼヨ。 トルコ共和国宣言記念日だキニ」 お気にいりのバイザーを磨きながら、ウィリーは言った。 「…他には?」 「とらふぐの日。ホームビデオ記念日。毎月29日は肉の日。それから…」 「もぅいいゼヨ…」 ウィリーの言葉を遮り、バーニーはよろよろとしながらチームルームを出た。 心にぽっかりと空隙ができた気分だった。 年に一度の記念日なのに、皆薄情だゼヨ…。 「あぁ…夕日が目に染みるキニ…」 川岸で、西の街へと沈みゆく太陽を見送る。 誕生日にひとりきりで、川原の土手で一日を過ごすのも、オツなものだ。 ぼんやりと、赤く染まった流れ行く水を見つめて、ハァー…と長いため息を吐いた。 ローランやウィリーはともかくも、ずっと同じ小学校だったジムやシナモンに 誕生日を忘れられていたのが辛い。そんな浅い付き合いでもないのに。 「そんなに…存在感なかったカヤ…?」 三角座りをして、顎を膝のうえに置いた。 目だけを腕の上に出して、じっと川を見つめる。 …しょうがないか。 ジムは自分のことで一杯一杯だし、シナモンはジムにかかりきりだ。 ウィリーはネイティブサンに新たな改良を加えるのに夢中だし、 ローランは相手の戦力分析を担当している。 チームメンバーそれぞれの顔を思い浮べて、バーニーは口元を緩めた。 仕方ないじゃないか。 皆それぞれに一生懸命だ。だから、ARブーメランズはバーニーがいなければ稼動しない。 資料の整理やらコースの下見やらの絶対必要な雑用は、 殆どをバーニーがこなしているのだから。 シルバーフォックスとも、ロッソストラーダとも、ビクトリーズとも違う。 それが、自分たちのスタイルだ。 「…そろそろ、帰らなきゃいけないゼヨ…」 誕生日は忘れていたが、あの連中のことだ、遅くまで帰らないと心配するに違いない。 自分勝手だなぁ、と思うと笑いが込み上げてきた。笑いと一緒に、喉の奥が痛くなった。 がしっ!! 「だぁれだっ! ゼヨ!」 「?!!」 その時突然、気配を殺して背後に忍び寄っていた人物が、バーニーに手を掛けた。 …バーニーの、首に。 じたばたともがくバーニー。 「探したきに、ギリー」 絞殺されかかっているバーニーには聞く吉もなかったが、 さくさくと芝生を踏んで土手を下りてきたのは、シナモンだった。 ジムに首を絞められているのにも気付かず、にっこりと可愛らしく微笑む。 「やっと見付けたぜよ。さぁ、帰るきに」 いや、だから助けて…! このままでは殺される! だけど、ジムに殺されたなんて末代までの恥だ。バーニー家の汚点だ。 バーニーは、ジムを背負ったまま無理矢理前転した。 ぐらりと重心が傾き、そのまま二人してゴロゴロと…川へ突っ込んでいった。 「まったく…死ぬところキニ!」 「ごめんゼヨー」 ぽたぽたと雫を滴らせながら、 三人はそれぞれ長い影を引きつれて帰路についていた。 くしゃみをしたジムを過度に心配しているシナモンを見ていると、 ちょっとだけ楽しくなった。 彼らは、わざわざ自分を探しに来てくれたのだ。 バーニーは軽く駆け出した。 「早く帰って服を着替えないと、風を引くキニ。宿舎まで競争ゼヨ!」 「あ、待つゼヨギリー!」 ジム、シナモンも続く。 「あーあ、どうせ走るんだったら、マシンを持って出てくれば良かったぞなもし」 「まったくゼヨ!」 無邪気な子供のままに笑いあって、3人は宿舎へと駆け込んだ。 2回の端にあるオーストラリアチームのドアを、バーニーが開けた。 瞬間。 パァン! パァンッ!! 「誕生日おめでとうゼヨギリー!」 「おめでとうキニ!!」 軽快な破裂音、それに続く祝福の言葉。 「…え?」 「なにぼーっとしてるきに? 今日は、ギリーの誕生日ぞな」 とん、とバーニーの背中を小突いて、シナモンは部屋に入っていく。 そして、綺麗に飾り付けされた机の上のケーキを取り上げた。 「ギリーの好きな、チーズケーキぞな! おいしいって評判のお店に ジムと買いにいったんぞな。1時間も並んだきに!」 ケーキの上には8本の蝋燭。 「HAPPY BIRTHDAY BARNY」とホワイトチョコで書かれたチョコレートの板。 …なんだか、脱力してしまった。 「は、ははは。はははははっ」 ぽろぽろと、…涙が零れた。 「うわ、ギリー泣いてるのカヤ?」 「感動屋さんキニー」 「でも、ナイショで計画した会があったぜよ♪」 「うん、そうゾナ」 ごめん。 ごめん、ごめん、みんなのこと薄情だなんて思って。 みんなのこと、疑ったりして。 一人で勝手に拗ねたりして。 本当に、ごめんなさい。 そして、 「ありがと、みんな」 俺、このチームでいてよかったよ。 HAPPY BIRTHDAY、BARNY!!! |
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オーストラリアチームが好きです。
優しくて、でもちょっと残酷な、子供っぽさ。
バーニー、のつづりがあっているか、自信がない。
モドル