。 。 。 涙 音 。 。 。
部屋の中でベッドに寝転び、ぼんやりと天井を見つめていた。
白い、細かい凸凹のある天井紙に視線を這わせながら、意識は宙に浮いている。
窓の外から聞こえる細い雨音が、他に音を立てるもののないこの部屋を現実から切り離していた。
雨は嫌いじゃない。
昔は、外へ出てミニ四駆を走らせることができないというだけで大嫌いだったが。
雨が降ると、決まって私は幼馴染を思い出す。
肌寒い空気の中で一つの毛布に肩を寄せ合って包まり、絵本のページを捲ったり下らないおしゃべりに花を咲かせたり、マシンのセッティングについて語り合ったりして一日を過ごした。
それは些細だが当たり前のように幸せだった時代の話。
幼馴染のどこか遠慮気味に見える笑顔はあの頃から変わっていないが、内面はどうなのだろう。
黙って一人で泣くクセを、彼に与えてしまったのは他でもない私だけれど。
コンコンコン、と雨音に混じって控えめなノックの音が響いた。
あいている、と声をかけると、ドアの開く音と共に失礼します、と予想にたがわぬ声が聞こえた。
ちらりと目線を向け、何か用かと問うと、何も、と返事が返ってきた。
珍しいな。と微笑と共に吐き出す。
私の脇にそっと腰掛けながら、彼はそうですか? と苦笑う。
声の下からスプリングの軋む音がした。
だってそういうのは、言いながら、むくりと身を起こす。
私の役目だったろう?
退屈になれば彼の元へ。それは私の起こす行動だった。
そういえば、そうでしたね。貴方は暇になると、僕に甘えに来る。
くすくすと笑いながら、優しい声音を落とす。
目線をじっと合わすと、柔らかな空気の糸を彼は少しだけ引き寄せて、断ち切った。
伏せられた瞳に、逃げられた、と思う。
一瞬で伝わって来た彼の気持ちは返事を赦さず、これでは言い逃げにも等しい。
腕を伸ばして彼の肩を捕まえ、引き寄せると惑いを含んだ視線が強く絡んだ。
顔を寄せると、かわすように身を引く。
雰囲気は拒んではいないくせに。
触れるのが怖いと言うなら目を閉じていればいい。
何に、誰に、触れているのかが知りたいならば、囁いて教えてあげるから。
手に力を込めれば、歯車で連動したカラクリ人形のように彼の身体も強張る。
逃げないように視線で縛り付けて、唇を重ねる。
優しい濡れた音をさせて、触れただけの唇を外す。
揺らいだ温度を逃さずに、彼はベッドに置いていた手を持ち上げて私の髪に触れた。
壊れないように気遣いながら、側頭から後頭、うなじと落ちてゆく暖かい手は、すがり付いてくる子供のそれにも似ていた。
小さな力で抱き寄せられた気がして身を寄せると、深く淋しげな瞳とぶつかった。
お詫びのように、鼻先にキスを一つくれる。
お返しのように顎に触れると、びくりと驚いたように身体が跳ねる。
私よりも、きっと壊れやすいのはお前なのに。
私はそんなに簡単に、壊れたりはしないのに。
腕を伸ばして腰を抱き寄せ、困ったように下がった眉尻にキスを落とし。
首の後ろにある彼の手の、指先に僅かに力がこもる。
…私は。
しあわせものだと、おもう。
強く、強く、抱きしめられた。
彼の身体からは、暖かい石鹸の香りがした。
<了>
ツガイ。エシのつもりで書き始めたのですが(!)、
うちのシュミットって身体接触好きなもんだから!
モドル
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