煌々たる月の光は足元しか照らし出さず。
ならば、俺の行く先を照らすのは誰だ?
Guardi il mio futuro
愛用のナイフを砥石にこすり付け、その鋭さを増す。
ときどき蛍光灯の白々しい光にかざしては、その煌めきを己のウルトラマリンに映しこむ。
その単調な作業を、少年は繰り返していた。
リビングの、黒いビニール革のソファに浅く腰をかけ、その視線はとがった切っ先にのみ注がれている。
かちゃりと、ドアノブの回る音がした。チームルームのドアは、ノブ以外にはほとんど音を立てない。
開いた隙間から滑り込むようにして部屋に入ってきたのは、夜色の髪と瞳をした少年だった。
彼はすぐに、ソファのリーダーを目に留める。
「またやってンの? …仕方ないか、趣味だもんね」
くすくす、どこか莫迦にしたように笑いながら、ジュリオはカルロの正面のソファに腰をかけた。
深い海色の瞳が、ジュリオを睨む。
「…趣味じゃねェ」
「違うんだ? 週間WGPのプロフィールに書いてあったけど?」
背の低いテーブルに片肘を突き、手の甲に顎を乗せる。
ルージュをひいた赤い唇は、見るものを不快にさせる弧を描いていた。
カルロは視線を外した。
「あんなもん、半分はテメェらが書いたガセネタじゃねェかよ」
面倒くさいとカルロが投げ出したアンケートに、ジュリオやリオーネが面白がっていろいろと書き込んだのだ。
人数分提出されてはいるアンケートだが、答えたのが本人であるとは限らない。
ジュリオはさも愉快そうに哂って、そうだったかしらね、と言った。
氏名、年齢、誕生日、血液型、身長、体重、趣味、好きな食べ物、嫌いな食べ物、出身地、家族構成。
ミラノの路地でうらぶれていた孤児たちに、FIMAは何を望むものやら。
カルロはナイフの刃を青白い光にかざした。
知ろうとは思わないし、知りたくもない、真実。
ナイフの向こうに見える美少年は、形のいい脚を組んでカルロに嘲るような微笑を送り続けていた。
「…ルキノ達はどうした?」
「知らないわよ。…知ってるなんて思ってないくせに」
カルロは何も答えなかった。
元々、ロッソストラーダのメンバーは5人とも個人主義者だ。
利害が一致したときには共に行動もするが、ベタベタ群れているのは趣味じゃない。
ロシアの狐どもでもあるまいし。
シュッ、シュッ、と、砥石とナイフが擦れる音が、部屋の中に響いている。
ジュリオはソファを立って窓際に歩み寄った。
引いてあるカーテンを少しまくって、空を見る。
ジュリオの髪の色と同じ、濃い紺色の中に、獣の瞳のように鋭い月が輝いていた。
「…明日も晴れそうね」
「関係ねェな」
カルロの言葉に、ジュリオはカーテンを右手に掴んだまま振り返った。
深い海の色はナイフに映りこんだままだった。
「…そうね、アンタは今日しか見ていないもの」
即物的なものにしか、興味を示さないもの。
青空色の瞳が、意味ありげに細められる。
「アンタのそういうとこ、アタシは好きよ。
でも、足元しか見てなかったらそのうち明日に頭をぶつけるかもね」
「なら、」
くるくるとカルロの指先で玩ばれていたナイフが、その持ち主の手を離れ、ダーツの矢のように壁に突き刺さった。
「てめェが俺の明日を見てろよ」
柔らかな肌を掠めた白銀の閃光は、赤い軌跡をその後に残した。
生暖かい液体が、一文字の傷から溢れ出す。
「…上等」
頬を伝い落ちてきた鉄味の液を蠱惑的な赤い舌で舐め取る。
ジュリオはもう一度ソファに近づくと、カルロの膝の間に肩膝をついた。
ソファが微かな音をさせて軋む。
1cmしか身長の違わないリーダーを見下ろしたジュリオは、傷口に中指と人差し指を這わせ、
その指をカルロの唇に滑らせた。
「見ててあげるわよ。アンタの一番傍でね」
安っぽい蛍光灯の光の下。
扇情的な赤が濡れ光っていた。
〈了〉
短ェ…!!
はーいカルジュリカル! 攻×攻!!!(←SOSの理想)
カルジュリは他人様の読むの好きですが自分で書くのは初挑戦でした。
面白かったですが、偽者のにおいがぷんぷんしますね。
「こんなんカルジュリちゃうわーーー!!! 本当のカルジュリっちゅうんはやなぁ…!!!」とか、
SOSに真のカルジュリについて教えてくれる師匠求む!!(え)
「SOSのカルジュリが読みたい!」とおっしゃってくれたお三方、ありがとうございます済みませんm(_
_;;)m
オイラにはこれが精一杯です…。所詮 シュミエリ人間 ですヵら!
モドル