「祝って」。 Compleanno 一人ぶんのショートケーキと一本のワイン。 当然ながらグラスは一つ。 そんなものを嬉々としてカルロの部屋に 持ち込んだジュリオは、 手前勝手にそれらの品々を机の上に置いた。 部屋の持ち主がベッドの上から、 眉間に皺を刻んで睨んでいようが そんな事には頓着しない。 それどころか、 カルロがふかしていた煙草を ひょいと取り上げて一息吸うと、 灰皿に押し付けてにこりと笑った。 「ケーキが不味くなるから、 煙草は吸わないでくれる?」 Si、 なんて返事を期待もしていなければ聞く気もない。 それを知っているから、 カルロは何もいわずにごろりとベッドに転がった。 気の済むようにさせておけば、 そのうち満足してここから消えるのだろう。 いつものように。 ジュリオは確かにカルロに懐いているが、 それは本当に猫のような。 気の向いたときにしか、 利益を享受できるときにしか、 傍には来ない。 その関係を都合がいいと思っているからこそ、 カルロはジュリオのこういった 傍若無人な態度を許容してきたし、 ジュリオはあえてカルロにべったり くっついていようなどとは思わなかった。 強奪を得意とするロッソストラーダの面々にとって、 利害損得関係はお互いに共通する、 唯一と言ってもいい行動原理、 協力と妥協の境界線だった。 ジュリオはカルロの椅子の上に三角座りをした形で収まり、 買ってきたケーキをパクつきだした。 フォークも何も使わず、 手づかみでそのまま口へ運ぶ。 オーソドックスな生クリームたっぷりのショートケーキの上に、 苺やラズベリーやブルーベリーが 品良く乗っているそのお上品さと、 ジュリオの姿態がアンバランスで、 カルロは鼻で笑った。 あげないわよ、 という風に睨んでくる瞳を、 いらねぇ、 と睨み返す。 何を期待しているのか、 それとも何も期待などしていないのか。 見るともなくジュリオの方に視線をやりながら、 下らねぇ、 と思う。 「誕生日」も「年齢」も、 社会基盤の上の一つの指標に過ぎず。 どれだけ幼くとも立派な奴は立派で、 逆にどれだけ成長しようと下らない人間もいる。 その日を超えたからといって明日の何が変わるわけでもない。 ましてや本当の日付の解らないその“節目”の。 無意味さは限りがなくて。 「…なんで今日なんだよ」 ケーキを食べ終わったジュリオが、 ふと顔を上げた。 唇の端についたクリームを指で拭いながら、 覚えやすいでしょう、 と言った。 「なら、カミサマの誕生日にすりゃよかったんじゃねぇ?」 「アタシは誰かのついでに祝われたいなんて思わないわよ」 どこから見つけてきたのか 細いガラスのグラスにワインを注いで、 ジュリオは一息にその中身を煽った。 キリストの誕生日、 世間の人間が浮かれる中で ついでのように祝われるのは嫌だ。 どうせ解らない誕生日なら、 自分は一個の存在であることを選ぶ。 「…カミサマの誕生日。 カミサマって、 いるのかしら、 それともいないのかしらね」 2杯目のワインを注ぎながら、 ジュリオは呟いた。 「カミサマなんてのがいるんだったら、 アタシたちみたいなチームはない」 無意味にワインの中に指を浸し、 赤い液体をゆっくりと掻き混ぜる。 引き抜いた人差し指と中指から、 淡い赤の雫がポチャリとグラスに波紋を浮かべた。 自らの指に舌を這わせて、 ジュリオは冷笑に似た表情を作った。 「でもカミサマがいなくちゃアタシたちだって、 いない」 ちゅ…と音を立てて指から唇を離し、 ジュリオは椅子から立ち上がった。 ベッドに上がって、 カルロに覆いかぶさるように両手を彼の顔の左右につく。 見下ろす青空色の目と、 見上げる深い海の瞳。 本当は誕生日など関係がない。 神様がいようがいまいが、 自分には関係がない。 世間の人々が何を思おうが、 それも関係がない。 カルロの首筋に口付ける。 「…だけどカミサマに見ててもらう必要なんて、 どこにもない」 貴方の目だけに映っていれば。 貴方にだけ存在が証明してもらえれば。 貴方にだけ覚えていてもらえれば。 アタシはそれで満足なのだから。 だから。 「祝ってよ、 今日はアタシの、 誕生日なんだから」 冗談めかした笑いと喘ぎと、 甘い甘いアルコールの―――― <fine.> |
なにがなんだか。
やっぱりもうちょっと時間をかけて考えた方が良かったナァ…;;;
カルジュリの場合、お互いに相手を自分の付属品くらいの
当然の存在として見ていて欲しい。
シュミエリよりももっともっと、ある部分においては近しいんだ。
モドル