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「一人って珍しいよな」 木枯らしが吹き抜ける公園のベンチに並んで腰掛けて、マフラーに顔を埋める。 カイは苦笑した。 「そうですね。今日は…、追い出されたものですから」 「追い出された?お前が?」 信じられない、と言う風にカイの顔を覗き込んだミラーのグレイの瞳には、 なにをやらかしたのか、という好奇がありありと浮かんでいた。 カイは、はぁ、と大きく息を吐いた。 薄い湯気となった吐息が、頭より少し高い位置で拡散していった。 「…ちょっと、ありまして」 言葉を濁し、カイは空に視線を投じた。 真冬の青空は、不自然なほど鮮やかに青く、澄み渡っている。 カイの顔に暗い影など漂っていないのを見て取ると、 ミラーは気になる、と言った。 悪いニュースなら深く立ち入ろうとは思わないが、なんでもないことなら聞いてみたい。 他の人に伝えるかどうかは、話の内容に依ればいい。 カイは困ったように視線を逸らした。 「別に、大したことじゃありませんよ?」 「大したこと聞こうなんて、思ってないぜ」 明るい声に、カイは少し笑った。 「…パーティの準備をしているんです」 「パーティ?」 「今日は僕の誕生日ですから」 「マジでっ!? おめでとう!」 ありがとうございます、と答える。 カイは何かに照れながら、五色のマフラーに顔を埋めた。 一週間ほど前から、サバンナソルジャーズの 女の子たちはどことなくそわそわしだした。 カイに隠れてひそひそ話をしたり、 カイを残して買い物に行ったり、 何をしているのかと皆の集まっているところに顔を覗かせれば、 ジュリアナが慌てて「カイは見ちゃダメだ!」。 他のメンバーも似たり寄ったりの反応を見せる。 態度が露骨で、何をしているかなどすぐに知れた。 今頃、自分の驚いた顔を想像しながら、 チームルームを飾りつけたり、 ケーキを焼いたりしているだろう。 過剰な好意を寄せられることになれているわけではないが、 さっぱりしていて明るい、ソルジャーズの面々に 懐かれる事に悪い気はしなかった。 「…なぁ、ひょっとしてそのマフラーって手編み?」 目が飛んで穴が開いていたり、でこぼこしていたりする マフラーは、どう見ても売り物ではない。 カイは、冷やかし半分のミラーの言葉に、微かに頬を染めた。 「…ええ」 「モテモテで羨ましいな」 「……」 みんなで回し編みした、というマフラー。 色や編み方にまとまりはなかったが、暖かいと思ったのだ。 市販のものよりも、ずっと。 「……なんかさ、お前ってよく判らないよな」 答えのなかったカイから視線を逸らし、ミラーは、 地面につかない自分の靴の先を見た。 カイの靴先も、同じように宙をぶらぶらしていた。 「マシンだけ見てたら、バトルレーサーかなって思うのに、 すごい正統派だよな」 BSゼブラは元々、カイのマシンをベースにして 作られたマシンだと聞いている。 空気の刃の脅威は、あのマシンが初めて走った TRF戦や、その後のレースで何度も目撃している。 バトルレースの本場、アメリカのレーサーである自分が正統派、 などという言葉を使うのにはどこか抵抗があったが、 それでもカイの走りと信条を言い表せる言葉はそれしかないと思った。 カイは、マフラーの中で唇をゆがめた。 「…そうでもありませんよ」 そうでも、なかったんですよ。 ビークスパイダーは確かに、バトルマシンだ。 他のマシンを破壊するために作られた。 まっとうな走りは、本来の彼の走りには合わない。 合わないはずだ。 それでも、今の自分には。 勝利という言葉の意味が。 だから、今の自分にとって。 「でも、マシンは壊さないだろ?」 「今は…ね」 「ふぅん?」 カイがそれに触れることを拒絶している気配を感じ取り、 ミラーは会話を切り上げた。 白い息と共に、微かに時間が二人の間に流れた。 「あ、そうだ」 気まずくはない沈黙を破ったのは、ミラーの明るい声だった。 「これ、やるよ」 がさがさとビニールの派手な音を立てて、 ミラーが白い袋から取り出したのは、どこにでもあるようなチョコレート菓子だった。 カイが目をぱちくりさせていると、ミラーはその手にチョコレートを押し付けた。 「Birthday present!」 今日会えたのも、何かの縁だからさ。 「あ…りがとうございます」 押し切られて、カイは細長くて薄い、その箱を受け取った。 赤と白とが描かれたその箱が、まるでサンタクロースのようだと思った。 それは、カイが普段買うようなものではない。 だからきっと、これを持って帰ったら、 またソルジャーズの皆に冷やかされるのだろう。 言い訳を考えながら、カイはその安っぽいプレゼントを空にかざした。 黒い機影が、青い空を切り裂いて走っていった。 <了> |
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私的萌二人だよ悪いかよ…!!(逆ギレ?/何に)
きっと、カイはおうちでは誕生日プレゼントと
クリスマスプレゼントが一緒だったのだろう(笑)。
…色がスイカのようだよ、自分…
モドル