エーリッヒを柔らかい絨毯の上に押さえつけたまま、シュミットはくすくすと笑った。
「…懐かしいな」
「何がです?」
エーリッヒは、シュミットの下から尋ねた。少し息が上がっている。それは、シュミットも同じことだ。
「昔を思い出したよ」
「…僕もです」
エーリッヒがシュミットに笑いかける。この状態で思い出せる記憶は、双方にとって一つしかなかった。
「私はあの時、初めてお前を知ったんだ」
「…あれって、僕が転入して一週間くらい経ってからのことじゃありませんでした?」
「ああ、それくらいだったな」
「それまで知らなかったんですか? 同じ部屋で、僕たくさん話しかけた記憶があるんですけど」
シュミットはいつもの通りに不適に笑う。
「興味がなかったからな。お前の名前すら知らなかった」
エーリッヒは一つ、大きな溜め息をついた。
…信じられない。確かに僕は、彼ほど有名人じゃなかったけれど。仮にもルームメイトだったのに。
エーリッヒの目を見て、シュミットはまたくすくすと笑った。
「あの時からなんだ。お前を友人と認めたのは」
「そうですか。…僕は、ずっと貴方を見ていましたけどね」
転入したときから、ずっと。
今日も。エーリッヒはシュミットの背を追い続けている。
親友としては対等。
戦友としてはシュミットが上。
自分を守るために持っていた剣は、いつしか必要なくなり。
お互いに、パートナーを守るための盾を手にするようになった。
「…で? まいった?」
あの日とじように、体制的にはシュミットの勝ちだったが。
「いいえ、譲れません。あれ以上のスピードを出したら、カウルがもちませんから」
エーリッヒはにっこり笑いながらきっぱりと言い切る。
寝不足で苛々していたエーリッヒと、対人関係において苛々していたシュミットは、意見を
戦わせているうちに熱くなり、本当に久しぶりに取っ組み合いの喧嘩をしてみたのだった。
そして、シュミットが上を取った時点で、昔を思い出した。
あの時も、同じことをした、と。
「……もっと頑丈な素材があればいいのだがな」
「仕方がないですよ。これでも我が国最高の技術を計算してるんですよ?」
「ミハエルの力、だな」
思い出は心を落ち着かせるようで、二人は顔を見合わせて苦笑した。
静かに青白い光を放つPCのディスプレイの中には、二人で設計している新マシンの姿があった。
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