「ねぇーエーリッヒ、ゴー君に会えなかったよぉー。留守だって。
せっかくいきなり行って、突然名乗って驚かそうって思ってたのにー」
ミハエルが、シュミットと共に返ってきたエーリッヒに懐く。
エーリッヒは、シュミットと顔を見合わせた。
「…僕たち、ゴーさんに会いましたよ」
「ええぇぇっ?!! なにそれぇ?! どこで?!」
「レース会場ですよ。最初から、私の言うことを聞いていて下さればゴー・セイバとも
会えたんでしょうけれどね」
たっぷり棘を含んで、シュミットが言う。
その口調に、エーリッヒはまた、戦乱の予感を感じて、胸の前で手を組んだ。
…どうか、まだ穏やかに終わりますように。
「じゃ、いいや。レース会場でなんて、会いたくないもん」
余裕の笑みで、ミハエルが返す。
シュミットが、不快そうに眉を寄せた。
「初対面って、インパクトが肝心なんだよ。
やっぱり意外なトコで会わなくちゃ♪」
…何を企んでいるんだか。
アドルフは報告書の最後の見直しをしながら、溜め息をついた。
そして、ちらりと横目で相棒を見やって、もう一度。
ちょっと疲れた感じで放心しているヘスラーは、…鬱陶しかった。
「…なぁ、アドルフ」
「んぉあ?! な、何」
「…今度から、報告書の作成は俺にやらせてくれ…」
「……別にいいけど」
…もう二度と、一人で出歩かない…。
ヘスラーの小さな決意は、それでも数週間後には覆されねばならなかった。
……妙な噂を耳にした、帝王様の一言によって。
【了】
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