Sklave
「…ちょ、と、まっ…」
「お前に選択の余地なんてないだろう」
「…っ…!」
首筋に熱い痛みが走る。
それは、褐色の肌に紅い痕が刻みつけられた証だった。
今の自分の状況を思って、エーリッヒはずっと堪えていた筈の涙を零した。
闇に沈む部屋の中で、男にのし掛かられているだけでも問題だというのに。
自分は、お金のためにそれを許容しようとしている。
借金のカタに、エーリッヒの身体を貰うと言ったこの男…名を、シュミット、と言った。
浪費家である母親が、父に内緒でしていた借金のことを聞かされたのは、一週間ほど前のことだったように記憶している。
その金額の大きさに、エーリッヒはかなり驚いた。利子が付いて膨らんでいるらしいが、元金もかなり巨額だったに違いない。
「ぁ、っ…」
脇腹をなぞられて、エーリッヒの体がびくりと跳ねる。
エーリッヒの肌を舌で嬲っていたシュミットが、くすりと笑った。
「なんだ、敏感なんだな。…初めてじゃないのか?」
「…ッ!」
初対面にも等しい男に、体を良いようにされているのが悔しくて、そしてそれに抵抗できない自分が情けなくて、
エーリッヒは強く下唇をかみしめた。
父は今、少し遠くに商用で出かけている。貿易関係の会社を経営している父にとって、大きな取引を行っているはずだ。
母親は、家に来たのがこの男だと知るや、自分の部屋に閉じこもって出てこない。
エーリッヒは、諦めという心境のまま、家の前に付けられた大きな黒い車に乗り込むことを承諾した。
どんな母親でも、…例え血が繋がっていなくても、それでも愛していたから。
先に他界した本当の母親のように、愛したかったから。
こうやって彼女に献身的に尽くすことで、本当はエーリッヒの方が、愛して欲しかったのかもしれない。
「や…あっ…!」
悲鳴に近い声が、エーリッヒから零れる。
シュミットが胸の突起に、歯を立てたから。
初めてでも、体は否応なく反応する。誰にも触れられたことのない、敏感な場所ならなおさら。
シャツの前をはだけられ、下半身を完全にさらけ出させられているエーリッヒは、真っ白いシーツを強く掴んで震えている
ことしかできなかった。
シュミットはエーリッヒの胸から顔をあげ、ベッドの上で顔を背けているその顎を掴んで、無理矢理自分の方に顔を向かせる。
必死で視線を逸らすエーリッヒに、シュミットは目を細めた。
強くかみしめられて血の滲んだ唇に、シュミットは自分のそれを押しつける。
「ん…ッ!」
ぎゅっと唇を結んで男の舌の侵入を拒むエーリッヒに、一旦唇を離して、男は冷淡に告げる。
「…母親の借金を消すために、働くんだろう?」
びく、とエーリッヒの肩が揺れる。
相手の、深い紫の瞳の中に、慈悲の色合いは見えない。酷薄な笑みだけが、彼の顔には浮かんでいた。
瞼を伏せると、青い瞳からまた涙が零れた。
月明かりの中で、銀の睫毛が褐色の頬の上に陰影を描いた。
目尻にキスを落として、シュミットはもう一度エーリッヒと唇を重ねる。
エーリッヒは、そっと唇を開いた。
「んっ…ぅ、」
エーリッヒの眉が、苦しさで寄せられる。
口腔内で蠢く熱く柔らかい物体に、逃げる舌が絡められて、弄ばれる。
細く、形のいい指がエーリッヒの胸で遊んでいる。
これから始まる行為は恐怖以外の何物でもないはずなのに、的確に性感帯をついてくる彼の刺激は、
エーリッヒの中の隠された感覚を簡単に引きずり出していく。
深いキスが終わると、どちらともなく吐息が零れた。お互いの顎を、細い唾液の糸が繋ぐ。
「ちゃんと啼けよ、エーリッヒ。…なぁ」
…僕の名前を知ってる…?
つ、とシュミットの指が勃ち上がりかけているエーリッヒ自身に滑る。
「やぁっ…!」
反射的に口にした否定の言葉に、男の唇の端がつり上がった。
その表情は、まるで獲物を捕らえた猛獣。
「…そんなにココ、触られるのイヤか?」
余裕のある笑みを浮かべながら、シュミットはそれを握ると扱く。
「やめっ…! 放し、てっ…!!」
「大人しくしていろ」
高圧的な言い方は、逆らうことを許さない。
もとより、エーリッヒは逆らうことはできない立場だ。
「あっ…はぁ…っ…ぁ」
「気持ちいいだろう?」
「…や…ぁ…」
なにも考えたくない。
何も見たくない。
なにも感じたくない…。
イク直前で手を放されて、エーリッヒは思わず涙に濡れた瞳に相手を映した。
薄く笑みを浮かべて、シュミットは荒い息を吐くエーリッヒの口に指を2本、突き入れた。
「んうっ…!」
反射的に頭を引く。
「ちゃんと舐めておけよ、痛いぞ。初めてなんだろう?」
「う…っ」
たっぷり濡らされた指を口から抜くと、シュミットはエーリッヒの脚を抱え上げ、閉じた蕾に無遠慮に指を入れた。
「いっ…! 痛い、ッ…!」
エーリッヒの悲鳴を聞き流して、シュミットは指を奥に進める。
泣きながら痛みを訴え続けるエーリッヒが、中のシュミットの指を締め付ける。
「力、抜けよ」
「う、ううっ…」
どうしていいか判らなくなって、ただ泣き続けるエーリッヒの乱れた前髪を掴んで、意識をはっきりさせる。
「泣いてないで聴け。お前の立場、判ってるのか?」
エーリッヒが泣きながら溜めていた息を吐いた途端、中の指の数が増やされる。
「! っ、あ、ぁっ!!」
グチュグチュと、中を掻き回す淫らな音が部屋に響いた。
エーリッヒの声に、痛みによる悲鳴以外が混じってきたところで、シュミットは指を引き抜いて自身をあてがった。
ビクリと、エーリッヒの体が竦む。
シュミットは長い瞬きを一度すると、グッと体をエーリッヒに挿し入れた。
「やあぁっ…!!」
続きは声にならなかった。
ひどい圧迫感が、喉の奥にまでせり上がってくる。
「狭いな…」
汗ばんだ前髪をかき上げて、シュミットはさらに腰を進める。
「ぁうっ…!!」
首をぶんぶんと左右に振って、エーリッヒは止めてと叫んでいた。
相手が聞き入れてくれるはずもないと、判ってはいたが。
泣きながら必死に許しを請うエーリッヒを見下ろして、シュミットは呟いていた。
「お前が悪いんだ、エーリッヒ。俺のことを忘れたりするから…!」
「……?」
痛みで霞がかった頭では、エーリッヒにはその言葉は理解できない。
ゆっくりと腰を動かし始めたシュミットに、エーリッヒはもう、泣くことしかできなかった。
「……お前が悪いんだ…」
意識のないエーリッヒの、銀の髪を梳きながら、シュミットはもう一度呟いていた。
頬に残る涙の後が、首筋や身体のあちこちに刻まれた所有の証が痛々しい。
『…やくそく。おっきくなったら、ずっといっしょにいようね』
ほんの幼い頃、たった一週間だけ…、遊んだことのある銀髪の少年。
父の仕事の関係で、滞在していた街の子供。
シュミットが帰る日に、その子と取り交わした約束。
すべて、シュミットの中では色褪せることのない思い出。
エーリッヒは覚えていなかった。
エーリッヒがこの街に越してきたと知って、彼の家に行ったとき、彼はシュミットのことなどさも知らぬげに対応したから。
そして本当に、シュミットのことを忘れていたから。
苛立ちをそのままに、最低な方法でエーリッヒを手に入れた。
例え彼が自分を憎んでも構わない。
エーリッヒは俺に逆らえないのだから。
もう、逃がさない。
一生可愛がってやるさ。
せいぜい、最低な人間として。 【了】
裏100HITSリク、『裏イラストの小説@変形ヴァージョン・親の借金のカタに体を売らされることになった
育ちの良い少年と鬼畜系領主様』でした。
イタタタタ。微妙にいつか見た夢だ…。でも、あの夢はシンデレラ+人魚姫で微妙にギャグで面白かったデス。
HAHAHA。エーリ女装ネタだったしナ!!(SOS脳味噌腐ってる)
信じられないくらい時間がかかるネ、濡れ場を書くのって…。途中で何度もくじけそうになるし。ダラダラ長くなるし。
でも好き(消えろ)。
たーいとーるはドイツ語で「奴隷」。男性名詞の方の。
ハァー。鬼畜ってどういう人なのさ…(ふ、)
モドル ご意見ご感想