Geschenk 2月14日。 元・アイゼンヴォルフ一軍のメンバーは、この日に毎年、 例外なくドイツ南部のある城に集まることになっていた。 勿論、帝王の誕生パーティの為である。 今年も、6年前から始まった恒例行事はまばゆいばかりの城の一室で行なわれていた。 皆きちんとしたフォーマルウェアに身を包んでいるが、心は完全に打ち解けている。 そこにあるのは気心の知れた仲間内の雰囲気。 今日の主役であるミハエルは、少し短くした髪を一つに纏め、最上級のスーツで微笑んでいた。 十六歳になった彼は、未だ子供の幼さを残しているが、「大人」だった。 物腰や仕草や言葉選び。 心を許した昔の仲間の中で、遠慮無く話している時でも、彼の存在の端々にそれらは顕れた。 育ちの良さでもあるだろうが、あれは――。 「面白くなさそうだな、エーリッヒ?」 ミハエルの行動を目で追っていたエーリッヒは、その声でびくりと肩を震わせた。 「シュミット…」 やはり仕立ての良いスーツを着たシュミットが、相変わらずの不遜な笑みを口元に浮かべている。 エーリッヒはすぐに笑顔を作り、そんなことありませんよ、と言った。 「相変わらずだな」 嘘吐きが。 シュミットは、全てを笑顔の内に隠して口をつぐむ癖のある親友に溜息を吐く。 この優しい嘘吐きは、自分の体や気持ちを思いやることがない。 いつも誰かの為に尽くして、満足を得られているのだろうか? 付き合いの長いシュミットでさえ、エーリッヒを理解できなかった。 少し困ったように眉を下げて笑っているエーリッヒの頭をぽんぽんと叩く。 「…お前のような生き方は、私以上に面倒臭そうだ」 相手の気持ちや立場ばかりを優先して。欲しいものもそう言えないで。 いつの間にか同じくらいの身長になった幼なじみに、やはりエーリッヒは困ったように笑うのだった。 夜までパーティを楽しんだ四人は、結局ミハエルの要請に負けて一泊することになった。 割り当てられた部屋は趣向をこらした、華美ではない上品な部屋だった。綺麗にメイクされたベッドと、その隣にサイドテーブル、身だしなみを整えるために姿見もドアの傍にある。 「…で、なんなの?僕に話って」 ミハエルはエーリッヒを案内した部屋に入れて、ドアを閉める。 一瞬地面に視線を落として、エーリッヒは顔を上げた。 「…お誕生日、おめでとうございます、ミハエル」 「ありがと」 子供の顔でにっこりと笑って、ミハエルは立ちっぱなしだったエーリッヒをベッドに座らせた。自分もその隣に座り、青い瞳を覗き込む。 「…本題は?」 小首を傾げる仕草や見上げてくる表情は、自分に甘えてくれていた頃のミハエルで、エーリッヒは微かに淋しそうな顔をした。 「…ミハエル。辛く…ないですか?」 眉を寄せたミハエルに、エーリッヒは言葉を続ける。 「その…、自分を抑えるのが。なんだか無理をしているように見えたのですが」 元もと自由奔放なミハエルが、立場や礼儀に捉われて、自分を作っているように見えた。 翼を仕舞い込んで、大空を見上げている小鳥のような。 それがまるでアイゼンヴォルフ入団直後の彼のようで、エーリッヒは悲しくなったのだった。 エーリッヒの質問に、ミハエルはくすりと笑った。 まったく、エーリッヒは。 …いつまでも、変わらない。 隣に座るエーリッヒの手を、ミハエルは自然に握った。 「…うん。……辛い、よ」 顔を伏せ、手を取られたことに戸惑いを見せているエーリッヒから表情を隠す。 「…ミハエル…?」 泣いているのかと心配になったエーリッヒが顔を覗き込んだ瞬間、ミハエルは顔を上げて唇を重ねた。 触れ合わせ、すぐに顔を引く。 「何、を……?!」 目前で緑の瞳が、悪戯っぽく妖艶に微笑んでいる。 唇を片手で押さえようとしたエーリッヒの行動を制し、ミハエルは再び柔らかい唇に触れた。 明らかな意図をもってミハエルの舌が唇を舐めてきた時、エーリッヒは抵抗が出来なかった。 押し倒されるままにベッドに身を沈ませて、震えそうになる唇を微かに開き、柔らかいものを口内へと招き入れる。 歯列をなぞり、舌を絡ませて吸うと、エーリッヒから苦しげな声が漏れた。 繋いだ手が汗ばみ、力が込められる。 唇を離すと、透明な唾液が二人の間に糸を引いた。 「…ミハエル…?」 微かに乱れた息と、薄く色付いた頬。 エーリッヒは、色っぽかった。 「…ねぇ、エーリッヒ。恋人、いる?」 エーリッヒのスーツのボタンに指を掛けながらのミハエルの質問に、エーリッヒはゆるく首を横に振った。 「…そう。よかった」 ネクタイを外し、襟元を寛げて首筋に唇を落とす。 びくりと、エーリッヒの体が強ばった。 褐色の肌に赤い印を一つ刻み、ミハエルは顔を上げる。 「…ねぇ、エーリッヒ。僕、十六歳になったんだよ」 言いながら、エーリッヒのシャツのボタンを外していく。 外気に触れた肌が、その冷たさに震えた。 「誕生日プレゼントをちょうだい、エーリッヒ」 「ミハエル…」 じっ、と見つめてくる瞳の要望に応えて、エーリッヒは目を閉じた。 流されているのかもしれない。 でも…。 ボタンを外し終えた手が、エーリッヒの胸に滑る。 ぴくんと反応を返してくる体が可愛くて、ミハエルは胸の突起に指を絡めた。 「…っは…」 エーリッヒから吐息が零れる。 声が聞きたくて、ミハエルは片方の突起を口に含んだ。 「ぁっ…」 背筋を駆け抜けた感覚に、エーリッヒは空いているほうの手でシーツをきつく握り締めた。 繋ぎ直され、指を絡められた手は、シーツの皺の中に埋もれている。 指の腹と舌で押し潰したり摘んだりして執拗に刺激すると、突起が硬く立ち上がってくる。胸から顔を離してみると、エーリッヒのそこは赤く色付いていた。 荒い息を吐きながら身を震わせているエーリッヒの、閉じた目蓋にキスを落とす。 ひくりと震えた銀の睫毛は思ったより長い。 なんて、鮮やかな存在。 アイゼンヴォルフにいた頃から望んでいた。手に入れたい、と。 「エーリッヒ…」 唇と舌で、首筋からエーリッヒの体を辿っていく。 至る所に痕を残しながら。 「っん…ぁ、ミハエル…ッ!」 悪戯を仕掛けるように、ミハエルの指がズボン越しにエーリッヒ自身を緩やかに撫でる。 びくんと背筋を反らしたエーリッヒの胸に口付け、ミハエルは両手を使ってエーリッヒのベルトを外した。 「…ミハ…エル、電気を…」 自分たちの行為が明々と照らしだされているという状況に気がついたのか、エーリッヒは両腕で自らの視界を覆った。 「…別に、いいじゃない。僕は見ていたいな、…キレイなエーリッヒのこと」 言って、ミハエルはエーリッヒのズボンと下着を脱がせた。 エーリッヒが微かに身震いするのが判る。 「……」 口を開き、何の言葉も紡がないままにまた閉じる。 エーリッヒはミハエルの言うことに抗う気はなかった。 昔から、エーリッヒにとってミハエルは至高の存在。従うべき人物だった。 それは今も変わらず。 エーリッヒの楔に指を絡めるミハエルの行動に、エーリッヒは口をきつく閉ざした。 「んっ…っ、…んんッ…」 びくびくと小刻みに揺れる体に、ミハエルは顔を上げる。 「声、…我慢しないで。聞きたい。ちゃんと僕がエーリッヒを感じさせられてるんだって、知りたいから……」 引き結ばれた唇にキスをして、そのまま唇を下へと滑らせていく。滑らかな肌を辿り、ミハエルはエーリッヒの脚の付け根に顔を埋めた。 「、ぁッ、ミハエル…!」 濡れた感触が絡み付いてくる。 唾液と、エーリッヒの先端から零れる先走りの液を、丹念に楔に塗り付ける。ぴちゃぴちゃといやらしい水音をたてながら自分を追い込むミハエルに、エーリッヒは艶やかな嬌声で応えた。 「ミハッ…、もぅっ…」 エーリッヒの声を合図に、強く吸い上げる。 「あぁあ…ッ!」 びくびくっとエーリッヒの体が震え、ミハエルは口内に熱く苦い迸りを受けとめた。 「…気持ち良かった?」 顔を上げてにっこりと微笑むと、僅かに涙を浮かべた淡青の瞳が閉じられ、こくりと首が動く。 「よかった」 言いながら、ミハエルは体勢を上げてエーリッヒにキスをする。唇が触れ合うことを純粋に楽しむような、軽くて柔らかいキス。 ちゅ…と音を立てて口付け、ミハエルはエーリッヒの瞳を覗き込んだ。 「…ねぇ、続き…いい?」 遠慮がちに尋ねると、エーリッヒはくすりと笑い声を洩らした。 「…今更、ですよ、ミハエル。誕生日プレゼントが欲しいのでしょう?」 シーツを握り締めていた手を解き、金の髪を撫でる。首元で結わえていた黒いリボンを解くと、長い金髪が白い肩へと零れた。 筋張った指が頬を辿るのを感じながら、ミハエルは右の人差し指と中指でエーリッヒの唇をなぞった。 「舐めて、エーリッヒ」 言われて、エーリッヒは大人しく二本の指を口に含んだ。 舌が絡み付く感触をくすぐったいと思いながら、ミハエルは目を閉じて指を濡らすエーリッヒを見つめていた。 静かに微笑みながら、この人は――いつでも自分を、受け止めてくれる。 自分の意志など後回しにして。押し潰して。望みを叶えてくれる。 「…もう、いいよ」 エーリッヒの口から、たっぷり濡れた指を引き抜く。 「俯せて…膝、立てて」 どういう体勢になれと言われているかを悟り、エーリッヒは顔を羞恥に染める。 それでも、エーリッヒは要求に従った。一端起き上がってベッドに両手を付き、頭を下げてミハエルに腰を突き出す姿勢になる。 「良い子だね、エーリッヒ…」 濡れた指で、硬く閉じた入り口の周りを擦る。 「ぁっ…」 一度達して敏感になっている肌が、ミハエルの刺激を感じて震える。 口元に微かに笑みを浮かべて、ミハエルは二本の指をエーリッヒの蕾に挿し入れた。 「ぁん…ッ」 しなやかな背中が引きつる。 「…痛い?」 拒むようにミハエルの指をきつく締め付けるエーリッヒに、ミハエルは気遣いの言葉をかける。 エーリッヒは両手でぎゅっとシーツを掴んだまま、首を横に振った。 それを確認して、ゆっくりと指を進めていく。 小刻みに震え続ける背の窪みを、ミハエルは舌でなぞった。 根元まで指を埋めると、感じるところを探すように中で指を折り曲げる。濡れ始めている粘膜を捺し広げるように刺激していくと、手前に近い一点で、エーリッヒから一際高い声が上がった。 ミハエルの唇が歪む。 「ここ…気持ちイイの?」 爪で、柔らかく引っ掻くようにする。 「ひぁ…ッ」 支えていた腕から力が抜けガクガク震える。エーリッヒは重力に逆らわず、シーツに頬を押しつけた。 「ふぁ…ん、あっ…」 意味を為さない喘ぎと荒い息に、ミハエルも煽られる。 くちゅくちゅと、エーリッヒの秘部から漏れる音が部屋に微かに響いている。 「…エーリッヒ…」 名前を呼びながら、指を引き抜く。 「っはッ…ミハエル…」 誘うような声色。 普段は襟元すら着崩さないエーリッヒが、目の前で乱れている。 背筋がゾクリとした。 征服欲と支配欲が満たされる、甘い満足感。麻薬のように、それは抗いがたく心を蝕んで行く。 「…僕のも、して。エーリッヒ。痛くしたくないから、濡らして」 ゆっくりと、エーリッヒは動いた。とうに力の入らなくなっている体を引きずるようにして向きを変え、ミハエルのベルトを外す。前を寛げ、丁寧に形を変えているそれを取り出す。 触れている部分の熱さにエーリッヒは、ミハエルが男であることを再認識させられた。 そっと口に含み、舌を動かす。 「んっ…」 自分と同じ性である以上、感じる場所は似ているだろう。 裏に舌を這わせ、舐め上げる。 「っ…エーリッヒ、…」 括れを唇で柔らかく食み、先端の割れ目を尖らせた舌でいじる。 「っはっ…エリ…もう、いいよ…」 快楽に荒い息を吐きながら、ミハエルを濡らしていたエーリッヒに声を掛ける。 そうしてさっきと同じ体勢をとらせると、細い腰を掴んで入り口に先端をあてがう。 ひくっと痙攣するように蕾が動く。 「…力、抜いてて」 言って、ミハエルは先端を推し込んだ。 「ぅあッ…!」 圧迫感に耐えるように、エーリッヒはシーツを強く掴む。 震えている背中にキスをしながら、ミハエルはゆっくりと腰を進めた。 「…キツ…」 呟く。 熱く締め付けてくるエーリッヒの内壁は、ミハエルに強い快感を与える。 息を吐き、なんとか力を抜いていようとするエーリッヒに愛しさが募る。 「…エーリッヒも…」 気持ち良くなって欲しくて、前へと手を延ばす。 「やぁっ…」 握り込むと、甘い声がエーリッヒから漏れる。 内壁の締め付けが変化して、エーリッヒが感じていることを伝えてきた。 「動く、よ…」 緩やかに腰を動かす。 拒絶するのではなく、刺激を求めるように蠢く肉壁に、ミハエルは欲望を穿った。 ずっと前から自分だけのものにしたかったという、強い気持ちが伝わればいいと思いながら。 「あぁ、あッ…ミハエル…、ミハエル…!」 次第に激しくなっていく動きに、エーリッヒは無意識で何度もミハエルの名を呼んだ。 強く、でもひどく脆い印象のあったリーダーの名を。 支えて、抱きしめてあげたかった小さな少年の名を。 一際強く最奥を貫かれた瞬間、エーリッヒは二度目の精をミハエルの手の中に吐き出した。 同時に自分の身体の奥にミハエルの熱い奔流を感じながら、エーリッヒは意識を手放した。 「エーリッヒ…」 汗ばんだ空気と荒い息が支配する空間の中で、ミハエルはただエーリッヒを抱きしめていた。 胸に残るのは、満足感と、裏腹の小さな痛み。 自分の言うことを聞いてくれるエーリッヒを、その優しさを利用して傷つけてしまったことへの罪悪感。 それでも、手に入れたかったのだ。どんなことをしてでも。その為に例え、エーリッヒの意に反したことをしてでも。彼を哀しませてでも。 銀の髪に指を絡め、そっと引っ張る。 「大好きだよ、エーリッヒ」 永遠の愛を誓うかのように、厳かにその髪に口付ける。 …このまま、目を覚まさなければいいのに。 エーリッヒの寝顔を見つめながら、ミハエルは思った。 目が覚めれば、エーリッヒはこの一晩の夢から現実へと戻ってしまう。この城から、彼の本来の居場所へと戻ってしまう。 両の瞼にもキスを。 「ぅ、ん…」 微かに呻いて、エーリッヒは身じろいだ。起こしてしまったかと息を詰めたミハエルの頭を、エーリッヒは寝ぼけたままに腕を伸ばして抱きこむ。 頭上で聞こえる穏やかな寝息に、ミハエルは心の底から悲しくなった。 「…君は、……本当に、残酷だね」 …神様、そこにいるのなら教えてください。 愛しい人を自分に縛りつけるためには、どうすればいいのですか? 愛する人を誰にも渡さないようにするためには、どうすればいいのですか? この哀れな子羊に、教えてください。…神様。 |