初恋の人。
「なぁ、エーリッヒは、初恋っていつだった?」
「……え?」
突然話を振られて、今まで聞き手に徹していたエーリッヒはきょとんとした目を友人に向けた。
自分の部屋のベッドに寝ころんでいたシュテファンが、だから、と苦笑する。
「エーリッヒの初恋っていつだった、って」
「え、ええっ??!」
そう言う話に奥手なエーリッヒは、ひどく狼狽した。
恋の話になっていたから、完全に聞き手に回っていたのに。
「あー、俺も興味有るな」
「そーだよな、エーリッヒってそう言うの奥手そーだし♪」
床に腰を下ろしていたトーマス、アレックスも話に乗ってくる。
級友達に好奇の目を向けられて、エーリッヒは俯いた。
………覚えては、いるけど。
黙り込んでしまったエーリッヒを気遣ってか、トーマスが再び口を開いた。
「俺は、5歳くらいの時だったかなー。隣のお姉さんが好きだった」
「あー、解る解る。年上に憧れる年頃だろ」
「学校の先生とかな!!」
「有る有る! 教育実習の!」
3人が盛り上がっていく中で、エーリッヒは一人で黙っていた。
初恋は。
………11歳の時。
いや、違う。それは想いに気付いた歳で。
本当は、おそらく出会ったときに。いや、出会う前から。噂を聞いていたときから。
「…はつこい…」
エーリッヒは、微かに唇を開いてその言葉をなぞる。
そうして、目の前の3人を視界に入れる。
この友達には秘密の。
彼らは想像もしていない。
部屋に残してきた、あの人は怒っているだろうな。行くなとさんざん言われたのに来てしまった。
なぁ、今日俺の部屋でパジャマパーティとかやろうと思ってんだけどエーリッヒも来ないか?
シュミットよりも人当たりの良い、エーリッヒはクラスメイトにも人気があった。
シュミットは異性に対して絶大な人気を誇っていたが、エーリッヒは両方からの人望が厚い。いろんな人に、いろんな場所に誘われる。
それを、いつもシュミットは面白くなさそうな顔をして見ているのだ。
そして、行くなと言うのだ。
彼の独占欲は、思いの外強い。
エーリッヒはカーペットの上に食べ散らかされた、お菓子の袋や零れたカスに手を伸ばす。
手持ちぶさたを解消するかのように、一人で小さな掃除を始める。
ほとんど喧嘩をするような状態で部屋を出てきた。
行くなと言っているのが判らないのか!?
どうして、貴方にそこまで止められなきゃならないんですか!! 僕は、貴方の所有物(もの)じゃないッ!
そう言えば、シュミットは黙ってしまう。
5年前も繰り返した。その台詞。
あの時は未だ彼とは親友で。それ以上の感情は無くて。でも、おそらくあれが最初の、感情の変化点。
「あー! エーリッヒ何してんだよ! お前も話に入れよっ!!」
アレックスが、エーリッヒの行為を見とがめる。
え、と顔を上げたエーリッヒに、三人は溜息を吐いた。
「…なぁ、エーリッヒ。面白くないなら、別に無理していなくてもいいよ?」
エーリッヒを誘った張本人であるシュテファンが、言った。責任を感じているのかも知れない。
「そんなこと無いですよ。聞いているだけでも、楽しいです」
にこりと、エーリッヒは人当たりのいい笑顔を浮かべる。シュミットには、あまり自分以外に向けるなと言われている表情。
なら、もっとこっち来いよ。トーマスの声に、エーリッヒはゆっくりと身体を移動させた。
「それで、何の話してたっけ?」
「C組のエルケって可愛くねー? ってー話」
「ああ。でも、あいつ恋人いるんだろ?」
「マジでー!?! うーわー失恋」
軽い調子で進んでいく、友達の会話にエーリッヒは笑顔を零す。
彼らも、おそらく恋をしている。
「なぁ、エーリッヒって恋人いないよな?」
「……ッ?!」
びく、と身体を震わせたエーリッヒに、シュテファンは、またぼおっとしてた? と尋ねる。
エーリッヒは、いいえ、と首を横に振った。
「いませんよ」
落ち着いて。
冷静に。
応えれば、ばれない。ばれるはずがない。彼らには想像外の世界。
「それ、本当だろうな?」
トーマスがエーリッヒに、茶色の瞳を向ける。
エーリッヒは、本当です、と答える。
大嘘。
「今現在好きな人は?」
嘘を吐くべきか、それとも本当のことを言うべきか?
「いませんよ」
前者を取る。とてもズルイ。
「じゃーさー、エーリッヒって、初恋もまだなのか?」
アレックスは屈託なく尋ねてくる。
エーリッヒは首を傾げる。
「かも、しれませんね」
「かもしれないって何だよー。自分のことだろー?」
「でも、良く覚えていないんですよ」
嘘。嘘ばっかり。嘘ばっかり吐いてる。友達に。嘘を吐いている。
そうしなければ維持できないほどに、僕らの世界は脆かっただろうか?
ひとつも自信が持てない。
自身も持てない。
両方持っている。
いつでも自分の道を進んでいる。
初恋の人。
「随分遅かったな」
23時過ぎに部屋に戻った途端、そう声を掛けられて、ドアを開けたままエーリッヒは立ちすくむ。
闇の中に立っている同室者の影。
喧嘩みたいにして出ていって、帰ってきた。
気まずい。
「…まだ、起きていたのですか?」
シュミットの就寝時間は早い。昔から変わらない。
知っている。
「私の勝手だろう? ……入らないのか?」
貴方が恐くて入れません。そんな風に、言えればいいのかも知れない。
「さっさと入れ。…部屋が冷えてしまう」
苛々している、声。
エーリッヒは、ゆっくりと部屋に入る。部屋を冷やすのは得策ではない。自分もここで眠るのだから。
シュミットは部屋の中央辺りに立ったまま。
ドアを閉めて、エーリッヒは自分のベッドへと移動する。
「──楽しかったらしいな」
棘を隠そうとしない、声のトーン。
シーツをまくってその中へと潜り込もうとしていたエーリッヒは、短く、ええ、と答えた。
沈黙。
ベッドに収まったエーリッヒは、溜め息をつく。
「…ベッドに入ったらどうですか? 身体が冷えてしまいますよ」
部屋の中に立ったまま、自分を睨め付けているシュミットに声を掛ける。
それでもシュミットは動こうとしない。冷えた空気の中で。パジャマのままで。
…風邪を、ひいてしまう。
「シュミット。…いい加減に、して下さい。貴方がそうやっているかぎり、僕も寝ることが出来ない」
なるべく抑えた声で言う。
シュミットは何も言わない。
「…判りました、謝りますから! 貴方の警告に逆らったことは、謝ります! だから、ベッドに入って下さい!」
いつもは充分すぎるほどに大人なくせに、ときどきこうやって子供っぽい意地を見せる。
シュミットは結局、置いて行かれたことに拗ねているのだろう。
エーリッヒが自分を置いて行ってしまったことに、嫉妬を感じているのだろう。
一度、シュミットがこういう状態に陥ると、手に負えなくなることをエーリッヒは知っていた。
知っていながら、エーリッヒはシュミットを振りきったのだ。
あとの苦労を、知りながら。
何故。
「…何が、望みなんですか」
ゆっくりと身を起こして、エーリッヒが尋ねる。
シュミットの瞳の、奥は見えない。
「……別に」
やっと返ってきた返事は、とても短くて冷たい。
視線が逸らされる。シュミットの答えはおそらく正しい。彼自身にも、何がしたいのか、どうすれば気が晴れるのか、
きっと解っていない。
エーリッヒはベッドから抜け出す。
シュミットの体に腕を回して、抱き締める。
「…何のつもりだ」
シュミットの不機嫌な声。無視して、肩に頭をもたせた。
「…冷たい」
エーリッヒは呟く。
シュミットは動かない。
「…………一緒に寝ますか…?」
ぴくり。微かな反応。
エーリッヒはシュミットに見えないように微笑む。淋しかったというのなら、夜の、これからの時間を
一番そばで過ごせばいい。
シュミットの腕が、エーリッヒの腰に回る。パジャマの裾から入り込んでくる、冷たい指先。
エーリッヒはシュミットの肩を押し返す。
「嫌ですよ」
眉間に皺を寄せて、紫の瞳を睨む。
シュミットも、同じ顔をしている。
「僕は一緒に寝ますかって訊いただけで、こんなつもりは…っん…!」
未だ何か言おうとしていた唇を、シュミットは素早く塞ぐ。
無理矢理唇を割って舌を侵入させ、歯列をなぞって口腔内へ。逃げようとするエーリッヒの舌を追いかけ、捕らえて、
絡めて吸えば、エーリッヒの躰からは簡単に力が抜ける。自身を支える力を無くし、シュミットに縋り付いてくるエーリッヒを
彼のベッドに押し倒す。
「いや、です…っ、いや…!」
半分譫言のように呟く、エーリッヒの顔はすでに真っ赤。
…言い方が不味かった。エーリッヒはそのことを激しく後悔していた。エーリッヒの「一緒に寝る」は
「同じベッドで寝る」意味で、それ以上の意味を持たない。だが、シュミットには…。
「一緒に寝ような?」
機嫌が直ったのが判る、少し弾んだ声。
エーリッヒはそれにどこかで安心するが、前ボタンを外すシュミットの手を必死で掴んで抵抗する。
シュミットはエーリッヒの首筋に舌を這わせた。
「ん、ぁっ…!」
ゾクリと背筋に覚えのある感覚が走る。
ゆっくりと、張りのある肌の感触を楽しみながら、シュミットの唇は下へと降りていく。時折強く吸い付いて、
綺麗な褐色の上に赤い花を咲かせた。
敏感なエーリッヒは、躰の上を這い回る指の感触にひっきりなしに声をあげる。
理性と、本能がせめぎ合っている。シュミットは、エーリッヒの本能を応援するのが上手い。
胸の突起に口付けて、もう片方を指で嬲る。
「や、ぁん、…ぁ、」
ビクビクと、触るたびに反応を返す。
両の手で数え切れないほどに、肌を重ねた。自分より色の濃い肌の持ち主の、性感帯は知り尽くしている。
素直にならない彼を、陥落させる方法はいくらでもある。
するりと、シュミットの片手が下肢に滑った。
「あ、!」
びくんと、体が跳ねる。
触れそうで触れない、微妙な位置で手を遊ばせるシュミットに、エーリッヒは焦れる。
エーリッヒの躰を覆っていた衣服をすべて脱がせてしまうと、シュミットは器用に自分も脱いだ。
少しの間でも愛撫が止むと、躰がそれを求めて疼く。自分の躰がどれだけ淫らに慣らされてい
るのかが感じられて、エーリッヒはこの場から逃げ出したくなった。
だが、躰は正直にシュミットを求めている。
シュミットしか知らない、この躰は。
「なに、エーリッヒ?」
潤んだ熱っぽい瞳で見つめてくる、エーリッヒの望みを知りながら、シュミットは意地悪く笑う。
本当は、エーリッヒの媚態に煽られているシュミットに、そんな余裕はないのだけれど。
「…触って欲しいのか?」
シュミットはエーリッヒ自身に指を滑らせた。先端から零れる先走りの液をすくい取る。
「や、触らなッ、で…!」
理性を焼き切られそうになって、エーリッヒはシュミットの手を掴んだ。
シュミットは至極楽しそうに笑っている。
「そうか? お前のココは、触って欲しいって言ってるみたいだけどな」
手を掴まれているシュミットは、エーリッヒの胸を虐めていた顔をずらして、エーリッヒを銜えた。
エーリッヒは息を呑む。
シュミットは舌を使って、じっくりとエーリッヒを舐(ねぶ)った。
「シュミ…、や、め…!」
「止めろ? もっと、だろう?」
追い上げられたエーリッヒは、息すら上手くつけなくて、切れ切れにシュミットに制止を呼びかけた。
だが、シュミットには止める気など毛頭ない。ますます刺激を強くして、エーリッヒを追いつめる。
「我慢しなくて良いぞ、エーリッヒ」
シュミットが強く吸い上げると、エーリッヒの躰がシーツの上で弓なりにしなった。
シュミットの手を握ったまま、はあはあと大きく息をしているエーリッヒに、シュミットは口付ける。
「んっ…ふ、」
力の入らない躰では、もう抵抗のしようもない。
大人しくキスを受けるエーリッヒに、にこりと最上級の笑顔を見せて、シュミットは濡れた指を
エーリッヒの秘孔にはませた。
「ぁっ…!」
びくんっ、とエーリッヒの躰が大きく揺れた。
ゆっくりと奥へ指を進ませると、エーリッヒから甘い、切ない吐息が零れた。
熱い内壁がシュミットの指に、絡みついてくる。エーリッヒの弱い一点を軽く引っ掻くと、エーリッヒは
ひときわ高い声をあげてないた。
細く浅黒い腕が、シュミットの背に回される。
「…エーリッヒ?」
ぎゅうと目を瞑りながら、縋り付いてくるエーリッヒに疑問の声音をかける。
何も言わない、震えている躰を安心させるように、シュミットは片腕でエーリッヒを抱き締めた。
「大丈夫、か…?」
ここで駄目だと言われても、止めることはできないのだけれど。
こうやって、いつも無理強いさせてしまうのは自分の悪いクセだと判っているのだけれど。
エーリッヒは小さく、頷いた。
こうやって、受け入れてくれると知っているから自分をさえも甘やかしてしまう。
指を引き抜き、エーリッヒの脚を大きく広げさせると、シュミットはゆっくりと腰を進めた。
「あ、ああぁっ…!」
熱く脈打つシュミットが自分を穿つ痛みは、何度受け入れても慣れることができない。
それでも、こうやって躰を繋ぐことで、エーリッヒはシュミットに対する独占欲を満足させることができる。
そしてそれは、シュミットにも言えることだった。
奥まで入れると、エーリッヒは無意識に中のシュミットを締め付ける。
「エーリッヒ…」
青い瞳から零れた涙を舌ですくい取りながら、シュミットはゆるく腰を動かした。
「ぁ、ッ…!」
シュミットの背中に回した腕に、力を込める。
お互いの、熱い肌は溶け合うことを許さない境界線なのだけれど。
完全に一つになりたいなどと、本当に願うわけでもないのだけれど。
それでも、そう願うことが全くないわけではなくて。
「ひっ…あぁあッ…!」
激しく腰を動かし始めたシュミットに、エーリッヒは必死でしがみついた。
「エーリッヒ…ッ!」
最奥を突き上げると、シュミットはエーリッヒの中に自分の熱を解放していた。
同時に、エーリッヒも絶頂へと上り詰める。
シュミットはエーリッヒの中から自身を抜くと、そのまま、エーリッヒに覆い被さるようにベッドに倒れた。
達した直後で、まだ上手く息が出来ていないエーリッヒの前髪を、さらりと梳く。
はっ、と息を吐いて、エーリッヒはまだ少し涙の残る瞳でシュミットを睨んだ。
「…嫌だって、言ったのに…」
「誘ったのは、お前だろう?」
「誘ってませんっ!」
いつもの事ながら、シュミットのペースに乗せられたのが悔しくて、エーリッヒはふいとシュミットから
顔を背けた。
その背中に抱き付いて、シュミットはくすくす笑った。
「一緒に寝るか、って言ったのはお前じゃないか…」
「確かにそうですけど! 僕にはこんなつもりは…っ!」
「なかったって? そんなの言い訳にならないな」
楽しそうなシュミットの声に、エーリッヒはもういいです、と言ってシーツを引き上げた。
「眠るのか?」
エーリッヒを抱き締めたまま、シュミットは尋ねる。
「そうですよ。おやすみなさい」
その言葉に、シュミットは嬉しくなる。
エーリッヒは、自分に「離れろ」とも「自分のベッドへ帰れ」とも言わない。
「…おやすみ」
晒されたままの肩にキスをして、シュミットは瞳を閉じた。
……………、沈黙の中で、数分が過ぎた。
躰は疲れ切っていたが、エーリッヒはなんとなく眠れなくて、目を開けた。
目の前は、闇の支配する空間だ。向こう側に白く浮かび上がっているベッドは空。
エーリッヒを抱き締めたままで眠っている、シュミットのベッド。
「…シュミット、もう、寝ましたか…?」
声をかけても、返事は返ってこない。
エーリッヒは溜め息をついて、無理矢理にでも自分を眠らせようと再び目を閉じた。
「…寝るんじゃなかったのか?」
突然、耳元で聞こえた声に、エーリッヒはびくりとした。
エーリッヒの躰の竦みは、直にシュミットに伝わっている。
シュミットは、腕に少し力を込めた。
「シュミット、」
エーリッヒの声が、聞こえる。
「莫迦なことを聞いてもいいですか?」
エーリッヒの口元には、微かに笑みが浮かんでいた。
「…なんだ?」
「貴方の初恋って、いつでしたか?」
とたん、背後で吹き出す声が聞こえた。
「…シュミット」
振り返って、笑いを必死に堪えているシュミットを睨み付ける。
シュミットは、悪い、と言った。
「でもどうしたんだ、エーリッヒ。突然」
エーリッヒは暗闇の中でも判るくらいに赤くなった。だが、それを見られるのが嫌で、
シュミットに背を向け直す。
「興味本位ですよ。済みませんね本当に莫迦なことを訊いて。もういいですよ忘れて下さい」
拗ねたような声に、シュミットは、悪かったって、とご機嫌を取る。
「お前が聴きたいのなら、言うから」
答えが返らないまま、シュミットは口を開いて、ゆっくりと語りだした。
「2歳か、多分3歳になったくらいの頃かな。近所にあった公園で、数日間だけ遊んだ子。
お互い母親に連れられてて、私達はすぐに仲良くなった。名前も何も知らない。…初恋と呼べる
のかも判らない。ただ、その子に逢えるのが待ち遠しくて、毎日夕方、その子と別れるときには、
早く次の日になればいいと思ってた。毎日、母親に公園に行こうって…、あんまり上手にしゃべることも
できなかったのに」
シュミットは左手で、エーリッヒの頬に触れた。
エーリッヒは何も言わなかった。
「すぐに、その子は公園に来なくなった。それでも、私は毎日その公園に行きたいと言ったよ。
ひょっとしたらまた逢えるかもしれないと思って。でも、私と同じように向こうの母親と仲良くなっていた
母は知っていたんだ。その子はもう、この街には居ないんだって。私は、認めたくなかったのかもしれない」
シュミットは、微笑んだ。
「お前と同じような、銀の髪の子だったよ」
エーリッヒの手が、シュミットの手に重ねられた。
「シュミット。なら、貴方が僕を好きになったのは、僕がその子と同じ髪の色だったから、ですか?」
エーリッヒが左手に力を込めた。
シュミットは右腕に力を込めた。
「…さぁな。判らない。でも、…私が今、好きなのは、お前だよ。他の誰でもない。エーリッヒ、お前だよ」
「………知ってますよ」
そう言って、エーリッヒはシュミットの腕の中で躰を反転させた。
真っ直ぐに、暗黒色に見えるシュミットの瞳の奥を覗く。
「どこかで貴方は僕をその人に重ねているのかも知れない。でも、今、貴方の瞳に映っているのは僕だけです。
他の誰かじゃない。僕だけです」
にこりと笑って、エーリッヒは自分からシュミットに口付けた。
ちゅっ、と小さな音をたてて唇を離したエーリッヒの躰を、シュミットはさらに抱き寄せた。
「…お前は?」
「え?」
「お前の初恋は? いつだった?」
静かな湖面のような瞳が、細められる。
朱に染まった、頬。
口元には、笑み。
「…6歳の時、だと思いますよ。10年前の10月。相手は、栗色の、綺麗な髪の美人」
聴いていたシュミットの顔が、上機嫌に弛んだ。
「…それは、自惚れて良いのかな?」
「どうぞご自由に」
今度は、シュミットからキスをした。
それから、こつんと額を合わせて、暗闇の中でくすくす笑った。
誰にも秘密にしなければいけないほどに、僕らの世界は脆い。
関係が露見して、一緒にいられる自身はいるか、自信はあるか?
そんなのは判らない。
でも、初恋の人は両方持っている。
だから、僕も彼の想いにだけは自信を持てる。
彼が僕自身を好きでいていくれるということにだけは。
【了】
年頃の少年が集まって喋ることと言ったら、
猥談かコイバナだろうと思った。(をい)
シュミットの初恋の相手は、ご想像におまかせしまス☆(設定ありますけどサ)
裏掲示板初書込みリクリベンジのブツです…が、ちゃんとリベンジ…できてる…??
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