10「1996年8月12日(月) ドイツ・ベルリン(晴) 13:06」
昼食後の休憩時間は、各々自由に過ごせるリラックスした時間だ。
その時間に読み終えてしまおうと、自室に帰ったシュミットは、エーリッヒに借りていた本を手に取った。
ベッドに転がって、ページを捲る。
エーリッヒの蔵書は面白いものが多い。
しかも、シュミットに薦めるものは決まってシュミットのツボをついたものだった。
好みをよく理解している。
そのことに、シュミットはいつも感心する。
十数分が経った頃だろうか。コンコン、とドアをノックする音が聞こえて、シュミットは本から意識を浮上させた。
一瞬眉を寄せたが、ベッドに身を起こし、シュミットは、開いている、と言った。
「エーリッヒ?」
静かにドアを開けて入ってきたのは、今さっき別れたばかりの親友だった。
エーリッヒは、ひどく真剣な顔をしていた。
「どうしたんだ、一体」
閉じた本をベッドサイドに置いたシュミットの前に、エーリッヒは見下ろすように立った。
緊張感に満ちた表情は、レースの時のようだった。
「………」
ゆっくりと紡ぐ声は今にも震えそうだった。
エーリッヒは、左手に携えてきたものをシュミットに晒した。
シュミットは、何度か瞬きをした。
「ブラオローデルンじゃないか。懐かしいな」
綺麗にメンテを施された淡青のマシンには、覚えがあった。
エーリッヒは、数年前にはそれで走っていた。
自分も、黒のカラーリングのマシンで走っていた。
そんな、昔のマシンを今更エーリッヒが出してきたことが、シュミットと昔を懐古しようという
思いからではないことは、エーリッヒの表情からすぐに察した。
「シュミット」
何を言おうとしているのかは、読めた。
「僕と、一対一の勝負をして下さい」
ここは実力主義のアイゼンヴォルフ。
bRがbQに勝負を挑むことはけして不自然ではない。
元もと実力の似通った二人だ。エーリッヒがその気になれば、いつシュミットが負けてもおかしくなかった。
だが、アイゼンヴォルフの一軍になって2年間、エーリッヒはそれをしなかった。
いつでもbQの座から、リーダーを支えてきた。
それは、相手がリーダーであったからではなく、シュミットがリーダーだったからだ。
少なくとも、シュミットはそう思っていた。
それが、今になって勝負を挑んできた理由は。
bQの座をキープしたいからでは、きっとない。
ミハエルに勝負を挑まず、何故、今更自分に──。
「…判った。受けよう」
理由を訊くのは愚物のような気がした。
きっと勝負をすれば判る。マシンが教えてくれる。そんな気が、した。
「そのマシンでや走るのか?」
シュミットが視線でローデルンを指す。
エーリッヒは、ええ、と頷いた。
シュミットは掛けていたベッドから立ち上がり、机の引き出しを開けた。
一番下の、大きめの引き出しからシュミットが取り出したのは。
エーリッヒの目に、黒いカラーリングが映った。
「……、シュヴァルツファング…?」
振り向いて、シュミットはにやりと勝ち気に笑った。
「私もこれで走らせてもらう」
文句はないな、と言われて、エーリッヒも強気な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、シュミット」
彼も、未だ持っていた。
ライバルであった頃の、マシン。
「…捨てていなかったんですね」
「当たり前だろう。…捨てられるはずがない」
表情を弛めたエーリッヒに、シュミットは何を当然のことを、と言わんばかりの顔をした。
視線を、手の中のミニ四駆に移す。
エーリッヒも、愛おしげにマシンを見つめる。
このマシンで、一体どれだけのレースをこなしてきただろう。どれだけ一緒に走ってきただろう。
ボディが変わったこともある。マシン自体が変わったこともある。
でも、受け継がせてきたものがある。その魂は変わっていない。
自分と共に、育ってきたマシンだ。
「お前のマシン、練習走行はしたのか?」
「いいえ。貴方にも、メンテの時間は必要でしょう? 勝負の日時は、貴方が決めていただいて構いません」
「余裕だな」
「まさか」
ふっと、エーリッヒの顔から笑みが消えた。
余裕などない。どこにも。
表情の推移には気付いたが、シュミットはそれには触れなかった。
久しぶりに、仲間としてではなくライバルとして走るのだ、真剣にもなろう。
シュミットは片手を顎に添えて、少し考え込む様子を見せた。
「そうだな…、次の日曜はどうだ?
10月のヨーロッパGP予選を見据えたメニュー発表だし、その日の練習は朝だけだ」
シュミットは、一度頭に入れた予定を忘れることがない。
「だから、午後から。それでいいな」
「はい。あ、シュミット」
「何だ」
少し間を置いて、エーリッヒは口を開いた。
「アイゼンヴォルフのメンバーを全員、このレースに立ち会わせて下さい」
一軍だけではなく。
証人が欲しいのか。
走りを見守って欲しいのか。
それとも。
実力の差を。
「それは構わないが…、それはリーダーに言った方が良いな。
何にしても、この宿舎のコースを使う以上上の連中とリーダーに許可を得ないと仕方ないからな」
アイゼンヴォルフ宿舎外のコースを使う方法がないでもなかったが、それは最終手段だ。
ここ以上に設備の整ったコースなどそうざらにはない。
アイゼンヴォルフは実力のある大所帯なだけに、その設備も完璧だ。
恐らく北ドイツでは最高を誇るのではないだろうか。
「ええ。レースの申請は僕がしておきますから。…済みません、急に」
「構わないさ。久しぶりにお前とレースが出来るんだ。わくわくするよ」
そう言って、シュミットは本当に嬉しそうに笑った。
久しぶりに見る、年相応の笑顔は綺麗で眩しくて──。
「…エーリッヒ?」
「ッ、はいっ?!」
──── 何を。
シュミットが柳眉を寄せて、エーリッヒを見ている。美しい色の瞳を、向けている。
エーリッヒは理由も判らずに狼狽し、一歩後退した。
「じゃ、じゃあ、僕はレースの申請書を…」
「待て」
部屋を出ようとしたエーリッヒの腕を、シュミットは掴んだ。
心臓が、ひっくり返るほどに大きく脈打つ。
「な、何ッ…」
「なぁ、一緒にセッティングしよう。久しぶりにさ」
幼なじみのうきうきした声に、感情は落ち着きを取り戻す。
ほんの数年前までは、二人で、同じ部屋で、背中合わせでセッティングやメンテナンスを行っていた。
「良いですけれど。レースの申請はどうするんですか?」
「そんなもの。別に、夕食時でも構わないだろう」
一度言い出したら聞かないのは、この人の昔からの性格で。
判りました、とエーリッヒは苦笑と共に言った。
自分だって、本当はシュミットと一緒にマシンを触りたいのだ。久しぶりに…。
「道具を持ってきます」
にこりと笑って、エーリッヒはシュミットに、手を離してくれるように促した。
ああ、と言って、シュミットはエーリッヒを解放する。
部屋を出たところで、エーリッヒは一度、大きな溜め息を吐いた。
……一瞬、親友にときめいてしまった。
確かに彼は、とても綺麗なのだけれど。
今度は息を大きく吸い、気を落ち着けると、エーリッヒは自分の部屋へと廊下を歩いていった。
「19:09」
「レースぅ?」
食堂へ夕食を採りに行って、その足で二人はまずミハエルに報告をした。
ミハエルは大きな緑の瞳をくりくりと動かし、二人を観察している。
視線が上を向いているくせに、絶え間なく動かされているフォークは料理の中の
ニンジンだけを上手に皿の端により分けているのだから、器用だと思う。
「…君達二人、の?」
自分の向かいの席に座った二人に、ミハエルはどこか莫迦にしたような目を向けていた。
「ええ。6日後の、15時からを希望したいのですが。…アイゼンヴォルフ全員という、ギャラリー付きで」
ミハエルの視線を意識してか、シュミットの声には油断がない。
「…別にいいけどさ。それって、君の発案?」
「いいえ、エーリッヒのですが」
腕を伸ばし、ミハエルが選ったニンジンを料理の中に再び混ぜ合わせているエーリッヒに、ちらりと視線を送る。
ミハエルはフォークを口にくわえて、ふぅーん、と言った。少し、考えるように間を置き、フォークを口から放す。
「…それって、意味のあるコトなの?」
「はい」
目を大きく見開いたシュミットを制し、応えたのはエーリッヒだった。
緑の瞳を真っ直ぐ見据えて、エーリッヒは言う。
「大切なレースなんです、僕とシュミットにとって。…いいえ、僕にとって」
強い意志の宿った瞳に、ミハエルは肩を竦めた。小馬鹿にしているようにも見えた。
シュミットはただ、エーリッヒを見つめていた。挑むような目を、今度はミハエルに向けているエーリッヒを。
幼い頃から幾度見てきたか判らないが、何度見ても── 美しい、と思う。
普段の柔らかい表情(とりわけ笑顔)も好きだが、やはりエーリッヒには好戦的な眼差しが似合う。
シュミットは昔、彼にお前は猫のようだと言ったことがあった。そのイメージは、今も持ち続けている。
日常的には穏やかなくせに、いざ狩りとなると、鋭敏で油断のない姿を見せる。
「…別に、君達のことだから、僕は全然構わないんだけどさ」
ミハエルは皿の上のニンジンを睨み付けながら、言った。その後に続く言葉は、語られなかった。
ニンジンを含む大量の水と共に、ミハエルに呑み込まれて。
その言葉は、ミハエルにしてみれば言うのが煩わしいくらいに分かり切ったことだった。
「21:27」
「──これで全部、かな」
上層部に提出するための、レースの申請書数枚に記入を終えて、エーリッヒは息を吐いた。
一枚一枚捲りながら、もう一度書き忘れがないかチェックする。
「つっ…!」
親指が紙の側面と擦れて切れた。熱い、という感覚の後に、痛みは来た。
じわりと、一文字の傷口から血が滲んだ。
…緊張してる?
傷を舐めながら、エーリッヒは思う。
…情けないな。レースは6日後だっていうのに…。
しかし、それが決定したものになるのも、これらの報告書を提出してからだ。
エーリッヒは、自分を逃げられない場所に追い込もうとしている。
…逃げられない。逃げてはいけない。避けてはいけない。見極めなくてはならない。
自分と彼との、差を。
だが、それが恐くないわけではなかった。
お互いによく知っているからこそ。
長年となりを走ってきた親友との、はっきりとした差を認識するのは恐かった。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、エーリッヒはベッドに昇ってカーテンを少し捲った。
闇の中に、街の明かりが天空の星星のように輝いていた。
11「1996年8月18日(日) ドイツ・ベルリン(曇) 15:00」
広い練習場には、2つのモーターの音が響いていた。
スタート地点に並ぶのは二人の影。
今、シグナルが赤から── 青へ。
黒いマシンと青いマシンが、持ち主の指から離れて滑るように飛び出していく。
「行けッ、シュヴァルツ!!」
先にトップを取ったのは、シュミットのマシン。
第一コーナーでインをつき、エーリッヒのマシンをブロックして先へ。
アイゼンヴォルフのホームコースはコーナーとストレートが混合したテクニカルコース。
第一コーナーを過ぎるとストレート、その先に高速コーナーが連続する。
ストレート重視のシュミットのマシンは、そこで一気にエーリッヒのマシンを引き離した。
── 観衆の声が聞こえる。
多くは、シュミットの走りを褒め称えるもの。
だが、時々…エーリッヒの。
── あの二人は対等だと思っ──
── やっぱりbRじゃbQには敵わな──
違う、冗談じゃない。エーリッヒの実力はこんなものじゃない。彼はすぐに追い付いてくる。
コースの後半はテクニカルコーナー。エーリッヒは必ずそこで、勝負を仕掛けてくる。
レースに集中すべき気持ちは、ギャラリーの声で千々に乱れていた。
それでも、シュミットは後ろを振り返らない。
「面白くナイ試合ー」
椅子に座って、足を組んでいたミハエルが不満そうに呟いた。
ミハエルの傍に立ち、レースを見ているアドルフが、そうですか? と言った。
「面白くなるのは、これからだと思いますが」
「何で? どこで盛り上がるのさ、こんな、ミエミエの勝負」
膝に肘をつき、頬杖をついて、ミハエルはコースをちらりと見た。
「断言できるよ。エーリッヒは、一度だってシュミットには追いつけない」
もうファイナルラップが終わる。
青いマシンは来ない。
背後に、彼の気配も感じない。
…何を、しているんだ。
「エーリッヒ、何をしている!! 真面目に──」
初めて後ろを振り返ったシュミットは、そこで声を止めた。
エーリッヒが遅くなったのか?
それとも、私が速くなったのか。
シュミットとエーリッヒのマシンの差は、約一秒。
一秒もの差を。
エーリッヒは苦しい顔をしている。彼が精一杯なのは、それで判る。
だから、今の差が、
二人の実力の─── 差。
ミハエルは大きな欠伸をした。
「だから、意味あるのかって訊いたのに」
シュミットのマシンが、今、ゴールチェッカーを切る。
「15:47」
シュミットの中では、疑問が大きく膨らんでいた。
隣を走っていたはずの親友が後ろを走っていた。
いつからだった?
思い出せないのは、抜きつ抜かれつしていたあの時代の幻影をずっと抱いていたから。
「なぁ、いつから、私とお前には差が付いたんだ?」
幼なじみの二人は兄弟のようで。
隣を走っていた。
それが普通だった。
お互いがよく似た実力を持っていたからこそ、速くなっていけたのに。
エーリッヒは、薄い笑みを浮かべた。
「もう、ずっと前からですよ」
何を、今更。
もう、僕では貴方の相手は務まらない。
だから、貴方は求めた。
より速い人を。
その人に決死で肉薄していった。
無意識のうちにでも。
「シュミット」
それが、僕と貴方の才能の差だ。
「今日は、有り難うございました」
ぺこりと頭を下げて、エーリッヒはしっかりした足どりでレース場を出ていった。
その背を見送っていたギャラリー陣も、ざわざわとした声と騒音と共に消えていく。
椅子から立ち上がったミハエルは、うーん、と伸びをして、首を回す。
「あー、退屈だった」
僕は先に部屋に帰るよ、と言って、ミハエルもさっさとその場を後にした。
シュミットは、手の中のマシンを見た。
黒いマシンは静かに、自分の手の中にあった。
アドルフとヘスラーは、顔を見合わせた。
そうしてふと、ヘスラーは会場の隅に一つのレーサーズボックスを見つけた。
「………」
あれって、エーリッヒの…?
ヘスラーがレーサーズボックスに近づいたことで、アドルフもその存在に気がついた。
「なんだ、エーリッヒレーサーズボックス忘れていったのか。しょうがないヤツだな」
「…仕方ないさ」
ヘスラーはエーリッヒのレーサーズボックスを持って、微かに肩を竦めた。
「なぁシュミット、エーリッヒにこれ、届けてやれよ」
「え…?」
ふと上げた顔は、どこか呆けていた。
エーリッヒがショックを受けているのは判るが、どうしてシュミットがこんなに動揺するのだ。
「…俺が行くよ」
溜め息をついて、ヘスラーが言った。
シュミットが行くよりはマシな気がした。
「15:52」
部屋に帰り着いて、エーリッヒはベッドに倒れ込んだ。
スプリングが軋んだ。
「…くそっ」
呟く。
理解はしていたが、やはり口惜しい。あんなにはっきりと差を見せつけられては。
枕に顔を押しつけた。
──いつから、私とお前には。
「何を、言っているんですか」
くぐもった声が漏れる。目頭が熱くなる。堪えようとすれば、鼻の奥がツンと痛んだ。
ベッドに倒れたとき無造作に投げ出したマシンが、枕の横に鎮座していた。
淡青のマシンが、同じ色の瞳に映っている。
敵わないのか、彼には。アイゼンヴォルフ入団テストが、3年前のそれの記憶が蘇ってくる。
あの時、皆の歓声を受けながらトップでゴールしたのもまた──自分では、なかった。
栗色の髪の親友。
出会ったときから、彼はエーリッヒの前にいた。
その背にエーリッヒは追い付き、ここ数年はずっと隣を走っていた。
そして、今また彼が、一歩、前に出た。
僕じゃ、駄目なんだ。
シュミットは、より速い相手、より強い相手を追って成長するレーサーだ。
速いレーサーと走るだけで、前へ進んでいける。その才能を持っている。
アトランティックカップでNAアストロレンジャーズと、ブレットと走ったときから、
彼は確実にその腕を上げた。その、レースの中で。
隣を走るレーサーでは、もう。
エーリッヒは枕の端を握りしめた。強く、枕に顔を押しつけた。
コンコンコン。
ドアがノックされる。
今は誰とも顔を合わせたくなくて、エーリッヒは動かなかった。
コンコンコン。
シュミットのノックは、いつも4回。しかも返事を聞かずにドアを開けるから、これは彼じゃない。
ドアの鍵は閉まっていない。シュミットの癖を知っているから。
そうしてそれは、アイゼンヴォルフの中では周知の事実だ。
それでも返事を待っている、この律儀さは…、ヘスラーか、2軍か。
「──…開いてますよ」
顔を上げ、力なくドアに声をかけた。
ドアを引き、顔を覗かせたのは落ち着いた茶色の瞳だった。
「ヘスラー…」
笑う気力が起きなくて、エーリッヒは無表情にそう言った。
ヘスラーは、苦笑した。
「珍しいな」
ベッドの上に横たわったまま、顔だけをこちらに向けている。
エーリッヒが、他人にそんな姿を見せるなんて。
シュミットもエーリッヒも、他人の前では完璧を装う人物だった。
それは下の者に、自らの威厳や規律を見せつけるためでもあったし、彼らのけじめでもあった。
エーリッヒは、唇を歪めた。
「今くらい、構わないでしょう…? 少し、落ち込ませて下さい」
「…別に、いい。お前さえ許すなら」
エーリッヒは禁欲的で生真面目なぶん、特定の人物以外に弱い己を見せることを嫌った。
シュミットはまた、別の意味で他人に己を見せることを嫌う。
ヘスラーはエーリッヒの机にレーサーズボックスを置いて、枕元に腰を下ろした。
そのまま、頭を撫でてやる。細く、見た目より柔らかい猫っ毛は、心地の良い手触り。
エーリッヒは目を閉じて、その感触に身を委ねていた。優しい手の動きは、父や母…親を思い起こさせた。
ふいに、堪えていたはずの涙がエーリッヒの頬を伝った。
ヘスラーにそれを見られるのが嫌で、エーリッヒは再び枕に顔を埋めた。
ヘスラーは黙っていた。エーリッヒの悔しさは、少しはヘスラーにも判るつもりだった。
下手な慰めなど効果がないことも。だから、黙って傍にいた。
本当は、歓迎されてはいないことも知っていたが。
エーリッヒは、他人に弱さを見せることを嫌う。
それでも、エーリッヒは他人ほどにヘスラーを拒絶しない。
「………僕は、…あの人と走りたい」
十数分後、沈黙を破ったのはエーリッヒだった。
「あの人と。…レースで。公式のレースで戦いたい。そうすれば、…僕も、速くなれるかもしれない」
「エーリッヒ。それは…」
仲間としてではなく、敵としてレースで相見える。
それは。
「…移籍」
エーリッヒは、ゆっくりと顔を上げて言った。
青い瞳に燃えるのは、嘘や冗談ではない炎だった。
「エーリッヒ」
「……人のこと、言えませんね」
くすりと笑って、エーリッヒは身を起こした。
「ミハエルにね、…アイゼンヴォルフ以外でもよかったならここに入るなと、
…言ったことがあるんです。なのに、僕もそうしようとしている」
フラオローデルンを手にとって、エーリッヒはそれを高く差し上げた。目を細める。
「ザックスが聞いたら、怒るでしょうね」
アイゼンヴォルフを、世界最速に出来るのはこのメンバーだと思っているザックスが聞いたら。
それでも。
「僕は、速くなりたいんです」
もう一度、あの人の隣を走りたいんです。
12「1996年8月21日(水) ドイツ・ベルリン(晴) 14:52」
「ただいまー!」
一軍用リビングのドアを元気に開けて入ってきたのは、ミハエルだった。
パン屋に寄ったときに買ってもらったのであろうクッキーを、片手に持っている。
「おかえりなさい。…あれ、エーリッヒは?」
一緒に出掛けていたはずの彼の姿がないのに、アドルフは首を傾げた。
ミハエルは、三人がけのソファを一人で占領して、あのね、と言った。
「紅茶淹れてるよ、みんなのぶん」
帰ってきて速攻それかよ、と、アドルフはエーリッヒの性格を気の毒に思った。
「しっかし、リーダーはエーリッヒのことを気に入ったみたいですね」
アドルフが言うと、ミハエルはにーーっこり笑った。
「うん、大好きだよ。エーリッヒも、エーリッヒの淹れる紅茶もね」
「お待たせしました」
器用に片手にトレイを乗せて、もう片手でドアを開けて、エーリッヒがリビングに入ってきた。
「何だよエーリッヒ。言ってくれれば開けたのに」
エーリッヒに駆け寄って、アドルフが言った。トレイを受け取って、テーブルに持っていく。
「済みません。でも、自分で出来ることでだれかの手を煩わせることもないかと思って」
「そんなこと言って、ひっくり返したらどうするんだよ」
それこそどうしようもないだろ、と言って、アドルフは苦笑を浮かべた。
そうですね、とエーリッヒも笑う。
紅茶をカップに注いで、エーリッヒは皆に回した。
ミハエルとアドルフとヘスラーと………、…?
「…シュミットは?」
「今気がついたのかよ…」
アドルフは溜め息をつく。
「部屋じゃないのか? 見てないよ」
言葉を続けると、エーリッヒはそうですか、と言った。
「じゃあ、僕持っていきますね」
二つのカップを乗せて、もう一度トレイを持って立ち上がったエーリッヒを、
アドルフはリビングのドアを開けて見送った。
それからソファに戻る。
紅茶の香りを嗅いだへスラーが、首を傾げているところだった。
アドルフもカップを持ち上げる。
スズランの花のような、香りがした。
「…、なんていう紅茶だろうな、これ」
一口啜ると、渋みの強い味が口の中に広がる。
「僕が選んだんだよ」
ミハエルは、紅茶にミルクを注いでいた。
「確かねぇ、ウバ、だったかな? いろいろ飲んでみたくて買ってもらったんだ!
ミルクティーが美味しいって、エーリッヒが言ってたよ!」
カップの中のゴールデンリングを見ながら、ヘスラーは目を細めた。
…エーリッヒは、変わらない。
それでも心中、彼は大きな決断をした。
誰が、彼を止めることが出来ようか。誰に、その権利があろうか?
その権利を持つ者がいるとしたら、たった一人。
エーリッヒの移籍を決断させた人物だけだろうと思った。
「15:00」
シュミットは苛立っていた。
それもこれも、ミハエルのせいだった。
自由奔放に振る舞う、子供っぽいミハエルが、シュミットは気に食わなかった。
オーナー連中とのミーティングをシュミットとエーリッヒに押しつけたのも頭痛の種だった。
元もと速かったのが、タイム計測毎に速くなっていくのも苛立ちの元だった。
必要以上にエーリッヒを独占したがるのもまた、不満だった。
今日、紅茶の葉を買いに行く、と言ったエーリッヒに、ついて行くと言おうとしたシュミットを押しのけて、
ミハエルは名乗りを上げた。そうして、エーリッヒは微笑んでミハエルを同行者として選んだ。
それが、シュミットには不満だった。
いつも、買い物に行くときにエーリッヒの隣にいたのは自分だったのに。
どうしてエーリッヒはリーダーにばかりかまうんだ…!?
それに、リーダーもエーリッヒを離さないし…。どういうことだ、全く!
あいつは、私のものなのに…!!
思ってから、シュミットはドキリとした。
私のもの…?
確かに、シュミットは6歳の時からエーリッヒを独占し続けてきた。
だが、エーリッヒは物ではない。誰の物、というのはおかしいではないか。
一人の人間としてエーリッヒと親友になり、またその定義の元に付き合ってきたのではなかったか。
…なのに。
シュミットは、ごつんと壁に後頭部をぶつけた。
「最低だ…」
知らぬうちに、エーリッヒを束縛したがっていた。
お気にいりの玩具を取られるような気持ちで、ミハエルに嫉妬した。
…嫉妬? 嫉妬だと?
違う。そんな子供っぽい感情じゃない。
しかし、実際は、シュミットのミハエルに対する感情は、強い羨望からくる嫉妬だった。
はぁ、と大きな溜め息をついて、シュミットはがっくりと頭を落とした。
コンコンコン。
ノックの音。
シュミットは、開いている、と言った。
ドアを開けて入ってきたのは、いつの間にか追い抜いていた親友だった。
「エーリッヒ…」
「部屋に篭もって、何をしているのかと思えば」
ベッドにただ腰掛けているシュミットに、エーリッヒは溜め息をついた。
トレイを机の上に置いて、エーリッヒは勝手に椅子を引いて座った。
「何を考えていたんです?」
いや…、と言葉を濁し、視線から逃れるシュミットに、エーリッヒは口を開いて、閉じた。
カップに紅茶をついで一口飲み、唇を濡らす。
「…ヨーロッパGPの事ですか? それとも、WGPのこと?」
どちらも違う、と言おうとしたシュミットを、エーリッヒは素早く遮った。
「…WGPのオーダーはもう出ています」
シュミットは眉を寄せた。
「出ている? 私は聞いていないぞ」
「教えませんでしたから」
はっ、とシュミットの口から、冗談だろう、という息が漏れた。
同時にそれは、どうして教えなかった、という疑問の声でもあった。
シュミットには、アイゼンヴォルフのすべての情報が入るはずなのだ。
リーダーであったときも。bQになったとしても。
それなのに、WGPのオーダーという非常に重要な情報が来なかったのは何故だ?
エーリッヒは、一度目を閉じた。
「…これは、まだ僕のみにしか言われていないことだと思います」
おそらく、オーナー達はエーリッヒからシュミット達の耳にはいることを予想していた。
「WGPの開催期間は1997年1月からの一年間。
ヨーロッパグランプリ本戦と、半年近くの間被ることになります。ですから、」
エーリッヒは目を開いた。
「WGP前半戦、僕が二軍のリーダーとしてアメリカへ行きます」
「な、…ん、だと…!?」
オーナー連中のオーダーを聞いて、シュミットは愕然とした。
憤慨と同時に、悲嘆した。上の連中の読みの、なんと楽天的なことか。
歴史のあるヨーロッパ選手権を優先させる気なら、いっそWGPは二軍のみで行かせればいい。
どちらにしろ、
「優勝候補のアメリカには、私かリーダーでなければ勝てないというのに…!」
悔しそうに奥歯を噛み締めるシュミットを、エーリッヒは見ていた。瞳の奥に、静かで熱い情熱をたぎらせて。
「…シュミット」
エーリッヒの方を向いた夕闇の瞳は、一瞬、羨望を含んだ暗黒の色をしていた。
「この決定は、覆されます」
いやに自信のある言い方をする、エーリッヒにシュミットの心中で嫌な予感がした。
オーナー達の決定が、簡単に変更になるとは思わない。
「どういうことだ?」
「リーダーを負かされる人物が、アイゼンヴォルフからいなくなるのでは仕方ないでしょう?」
「いなくなる…?」
エーリッヒはいっそ酷薄な笑みを浮かべていた。
隣を走るレーサーでは、もうお互いに成長できないんですよ。
だから、僕がこのチームを抜けるんです。
「移籍します」
びくり、とシュミットの体が震えた。
大きく見開いた目が、嘘だろう、と言っていた。
エーリッヒは笑っていた。
「……、そうか…」
シュミットはなんとか、それだけ言った。
不整に脈打つ心臓が、重く胸で膨張していた。
シュミットは知っていた。
自分には、誰かの決定を否定する権利などないと。
エーリッヒが決めたことなら、受け入れてやらなければならないと。
「それは、すぐにか?」
エーリッヒは首を振った。
「貴方と、造っているマシンが完成したら。中途半端は嫌いなので」
「ヨーロッパグランプリはどうするつもりだ?」
「さぁ…、今期は欠場かもしれません」
向こうのチーム次第だけれども。
どくん、と心臓が鳴った。
エーリッヒが、自分の傍からいなくなる。
「…エーリッヒ、紅茶をくれ」
蒸らし時間が長かった為に濃くなった水色を、シュミットはじっと見ていた。
ぐい、と煽ると、刺激的な香りが鼻腔を突いた。
「…微妙」
呟くと、エーリッヒは苦笑した。
「ミハエルが選んだんですけれど。ミルクを入れると美味しいですよ」
…また、ミハエルか?
ミハエルの我が儘なら、お前は聞くのか?
頭がガンガンする。
シュミットは頭を押さえた。
エーリッヒが心配そうに、眉を寄せる。
「…シュミット? どうしたんですか、大丈夫ですか?」
エーリッヒは、シュミットの我が儘をずっと聞いてくれた。
今、ここで自分が『行くな』と我が儘を言えば…どうするだろうか。
仕方のない人ですね、と笑って、留まってくれるだろうか?
…そんな訳はない、か。
シュミットは何でもない、と言った。
一つだけ、シュミットには思い知ったことがある。
ミハエルにも他のチームにも、誰にも、エーリッヒを取られたくないのだということ。
あいつは自分だけのものであればいい。
…つまり、それは。
なんという絶望的な願いだろうと、シュミットは思った。
やはりこの世界には、神などいない。
13「1996年8月31日(土) ドイツ・ベルリン(曇) 11:27」
シュミットの部屋には2台のパソコンがある。一つはデスクトップ、もう一つはノートパソコンだ。
エーリッヒの部屋にはノートしかないので、容量の大きいデスクトップの方で、
二人は新型マシンの設計を行うことにしていた。
「もう少し、ウイングを寝かせた方がよくないか?」
椅子に座っているシュミットが、液晶の画面を指さした。
「…そう、ですね。でも、ボディバランスと強度の面から考えて、
これ以上スピードを重視するのもどうかと思いますが」
椅子の後ろに立っているエーリッヒは、あくまで客観的に意見する。
シュミットは、首を横に振った。
「それでは、…アメリカに勝てない」
呟いたシュミットの本心を、エーリッヒは知っていた。
「違うでしょう。…貴方が勝てないと思っているのは、彼らじゃ…、アメリカじゃない」
シュミットを追いかけている、エーリッヒだから判る。
シュミットが今、一番ライバル視しているのは誰か。
「リーダーでしょう」
ぴくんと、シュミットの形のいい眉が動いた。
エーリッヒの瞳は真っ直ぐ、シュミットを睨め付けている。
「…何を言っている。私達のチームのリーダーに勝てないのは、当たり前だろう?」
「当たり前、ですか。そんな言い訳、…貴方らしくもない」
視線が逸らされ、光を放つディスプレイに注がれた。
その瞬間、シュミットの中で何かが爆発した。
「お前に何が解る…!」
取り澄まして言葉を綴る、エーリッヒが言いようもないほどに憎い。
飛びかかるようにエーリッヒの肩を横から掴んで、絨毯の上に押し倒す。
とっさに受け身を取ったものの、その衝撃にエーリッヒの息が一瞬詰まった。
「っ…、何をするんですか!」
「煩い! 何もかも分かったような顔をして、どうせ私を嘲笑(わら)っているんだろう?!
負けた私を!!」
「ふざけるなッ!」
振り下ろされた拳をなんとか流し、のし掛かってくるシュミットの肩を掴んで任せに横へと倒す。
今度はエーリッヒがマウントポジションを取る。
「貴方を笑って何になる!? なら、貴方に負けた僕はどうなる!
あんなに差をつけられて! 貴方こそ、僕を笑っているくせに!」
「はっ…、そうかもな、しかし、私には後ろを振り返る気などない! 追い付いてみろよ、私に!」
ぱしん、とシュミットの両肩にかけられたエーリッヒの手を払う。
エーリッヒが一瞬怯んだ隙に、またエーリッヒを横に薙いだ。
「当然ですよ。言っているでしょう、僕は、このマシン作りが終わったらアイゼンヴォルフから抜ける。
…貴方に追い付くために!!」
「行くな!」
突然の言葉に、エーリッヒは動きを止めた。
あのシュミットが、誰かの決定に意見を挟むとは思わなかったから。
「…ッ、貴方には、関係ない」
エーリッヒは視線を逸らした。
「関係ないわけないだろう!?」
「関係ない、僕が決めたことだ。…貴方にだって、止める権利なんてない!」
シュミットは真っ直ぐ上から、エーリッヒを睨み下ろした。
「行くなと言っているのが、判らないのか?! 私はお前を何処にも行かせる気はない!!」
「…どうして貴方にそこまで束縛されなきゃならないんですか。
貴方はザックスにも同じように言ったんですか?
…ザックスも、そうやって引き留めたんですか!」
声は静かだったが、震えていた。
シュミットは、ザックスを引き留めたりしなかった。
エーリッヒはシュミットを知っている。
「いい加減にして下さい。僕は…、僕は、貴方の所有物(もの)じゃないッ!」
「黙れ! お前は私のものだ! 私だけのものだ!!」
なっ、と、エーリッヒは目を見開いた。
何を言っているのだ、この人は。まるで、自分を物みたいに。
…親友と、…対等と、見てくれていると思っていたのに。
「…最低だ、貴方は…ッ!」
「何とでも言え。何と言われようと、私はお前を手放す気などないからな!」
私以外のものになるなど許さない。私以外の傍で走るなど許さない。
こいつは昔から、私のものだった。これからも、ずっと。
エーリッヒは、キッ、とシュミットを睨み付けた。
「冗談じゃない。僕の人生だ、貴方に決められてたまるものか…!」
「黙れと、言っているんだ!!」
思いきりエーリッヒの肩を絨毯に押しつけて、シュミットは、肩で息をした。
シュミットの下にいる、エーリッヒも上がった息を整えていた。
周りを気遣う余裕も、相手を思いやる余裕もない。
追いつめられていたのは二人とも同じ。
激情をぶつけるように、お互いに常には見られないような激しい言葉遣いで叫び合って。
「…懐かしいな」
「何がです?」
突然、ふっと微かに笑みを浮かべて、エーリッヒは尋ねた。
何もかも知っている顔に、シュミットにも余裕が生まれる。
「昔を思い出したよ」
長めの前髪を優雅にかき上げて、シュミットはエーリッヒに目配せをした。
「…僕もです」
エーリッヒも、柔らかく笑う。
シュミットもエーリッヒも、レース以外では大人以上に大人しい。
だから、こんなふうに取っ組み合って喧嘩をすることすら珍しかった。
彼らが過去、言葉以外で初めて喧嘩をしたのは、出会った直後。
お互いに、たった6歳の、何も知らない『こども』だった時。
二人が、いや、シュミットがエーリッヒを、初めて認識した時に。
「私はあの時、初めてお前を知ったんだ」
「…あれって、僕が転入して一週間くらい経ってからのことじゃありませんでした?」
「ああ、それくらいだったな」
「それまで知らなかったんですか? 同じ部屋で、僕たくさん話しかけた記憶があるんですけど」
「興味がなかったからな。お前の名前すら知らなかった」
不遜に笑いながら、親友を見下ろす紫の瞳は優しい。
エーリッヒは不満ありげにシュミットを見上げる。
…信じられない。確かに僕は、彼ほど有名人じゃなかったけれど。仮にもルームメイトだったのに。
だけれど、貴方にはそれが似合う。不遜な、神をも恐れない態度が似合う。
振り返らない、その姿勢が似合う。ミハエルに負けたとしても、そこで立ち止まらない人だから、
僕は貴方の親友でよかったと思うのだ。
そんな貴方だから、僕は貴方に追い付き、追い越し、
憧れだった貴方の目に留まるレーサーになりたいと思った。
僕だって、速くなりたかった。
貴方のように、なりたかったから。
「あの時からなんだ。お前を友人と認めたのは」
「そうですか。…僕は、ずっと貴方を見ていましたけどね」
さらりと言われた言葉に、一瞬シュミットの動きが止まった。
ずっと貴方を見ていた。
入学当初、まだエーリッヒのマシンはシュミットのものよりも遅くて。
ずっと、シュミットの背を追いかけていた。ずっと、彼の背を見て走ってきた。
追い付いて隣を走った時期もあったけれど、それもまた過ぎ去り、
繰り返される歴史はエーリッヒに、シュミットの背を見ていろと言った。
エーリッヒは、それでも、思っている。
いつか、貴方に僕の背中を追いかけさせてみせる。
「…で、まいった?」
期待を抱きそうになる気持ちを押し殺して、シュミットは無理矢理話を逸らした。
エーリッヒはそれに気付いた風もなかった。
「駄目ですよ、これ以上スピードを出すとカウルが保ちませんから」
シュミットに退いてもらって、エーリッヒは起きあがった。
マウスを動かして、ディスプレイの中のマシンを走らせてみせる。
一定以上のスピードになったところで、画面上のマシンの上部に、亀裂が走った。
「短時間なら平気ですが、長い間このスピードを維持するのは不可能です。
それに、タイヤの摩耗度の事を考えても、これ以上は賢明だと思えません」
画面を見ていたシュミットは、溜め息をついた。
「……もっと頑丈な素材があればいいのだがな」
「仕方がないですよ。これでも我が国最高の技術を計算してるんですよ?」
乱れた前髪をかき上げて、エーリッヒは苦笑して見せた。
「ミハエルの力、だな」
シュミットが肩を竦める。
正しくは、ヴァイツゼッカーの力、だろうか。
…嫉妬?
莫迦みたいな独占欲が、心の中で渦を巻く。
「13」は、すでに公開済みの「自分を守るための剣と、君を守るための盾と」です。
この小説にはすでに公開済みの小説を2本組み入れるという無茶をやらかした為、
自分の中で前後関係がしっちゃかめっちゃかになりました(苦笑)。
日本行きの前にアメリカ行きが決定していただろうと。思ったものですから。
モドル