足の向くままに風鈴街を歩いていく二人。
 やがて、学校のような場所へと行き着いた。

エッジ「フウ、……ショウ、ガッコウ…?」

ブレット「風鈴小学校、だな」

 何の恐れもなく校庭へと進んでいくブレット。

エッジ「おいおいリーダー!」

 不審人物が警戒されている昨今の状態を知っている
 エッジは、ブレットを止めたいと思った。
 たとえ今日が休日であったとしても、
 警察に訴えられてはギャグにもならない。
 エッジはブレットが小学生に見えないことも、
 不審人物に見えることもよく知っていた。
 しかし、本人はずんずんと進んでいく。

エッジ「あぁもう…!!!」

 仕様がないので、リーダーを追いかけるエッジ。
 校庭では、何人かの子供たちがサッカーに興じていた。
 良く見ると、その中の一人の顔に見覚えが。

ブレット「…ニエミネン・スノオトローサ?」

ニエミネン「誰だおれさまの名前を呼ぶやつは?」

 ぼぐっ

 ニエミネンがブレットの方を向いた瞬間、
 飛んできたサッカーボールが勢いよく
 ニエミネンの頭にクリーンヒットした。

 ニエミネンに18のダメージ。

エッジ「………」

ブレット「…大丈夫か?」

ニエミネン「いってぇえー! ヨーロッパ最速の男にボールをぶつけるなんて
       いい度胸だぜ! 勝負だぁーーーっ!!」


 一緒にサッカーをして遊んでいた小学生たちに、
 自慢の青いホワイトナイト(どっちやねん)を見せ付ける。
 しかし、当然ながらグランプリマシンと勝負をするようなアホはいない。

ニエミネン「なんだなんだ、どいつもこいつもビビってんのかぁ?
       まぁしょーがねぇけどな!
      何しろ俺はヨーロッパ最速の男だからな〜♪」


ブレット「マシンを持ち出すのはいいが、
     それはワルデガルドには承認を取っているのか?」


ニエミネン「ギクッ!!
       な、なんのことかなァ〜?
       おれ、わかんないナァ〜;;;」


 …どうやら無断らしい。
 ワルデガルドとついでにバタネン監督の苦労を思って、
 ブレットは一瞬彼らが気の毒になった。
 ニエミネンのように判断力がないわけではないが、
 天然でリーダーに苦労をかけられている自分の状況と
 オーディンズの二人の苦労が重なって、
 エッジはちょっぴり涙した。

ニエミネン「そういえば、お前らアメリカチームの連中じゃねーか。
       どうしたんだ、こんなところで。
       ……はっは〜ん、さては、おれさまと勝負してもらいたくて来たんだな?!
       それともヨーロッパ最速の男をスパイか〜?!」


エッジ「誰が最速だよ…。
    ミハエルの前でその台詞言ってみろっつーの…」

ニエミネン「は〜っはっはっは〜〜!
       まぁ、そういうことならしかたねーけどなー。
       でも、スパイ料はいただくぜ、なにしろおれ自体が
       オーディンズの秘密兵器だからな〜♪」


エッジ「人の話聞けよ…」

ブレット「残念だか、今俺たちはお前に支払えるようなものは
     持っていないな」


ニエミネン「なにー?!
       そんなのゆるさねーぞ!」


 近くに転がっていたサッカーボールを、
 ブレットに向かって蹴るニエミネン。
 かなり手に負えないお子様である。

ブレット「(ガキだな…)」

 ニエミネン・スノオトローサ。
 推定10歳。


 飛んできたボールを軽く横に避ける。
 その反動で、ブレットのポケットに入っていた
 キャンディー(すもも)がぽろりと落ちた。

ニエミネン「おっ?!」

 素早く拾い上げるニエミネン。

ブレット「おい、それは…!」

ニエミネン「持ってるじゃねーか♪ いっただっきま〜すvv」

 即効包み紙をむしり取って口に放り込むニエミネン。
 しかも飴は噛み砕く派。
 お子様の食欲は無限の可能性。

エッジ「あ゛〜〜〜〜〜っ!!!!!」

ニエミネン「美味かった〜v サンキューな☆」

エッジ「サンキュウ、じゃあねぇだろっ!!!」

ニエミネン「な、なんだよ、飴くらいでそんなに怒るなよぉ〜。
       オトナゲねぇなぁ…」


エッジ「こんのっ…!」

ブレット「…あの飴は、何かと交換でなければ渡せない
     決まりになっていたんだが…」


ニエミネン「え? そーなの? なんだ、それならそーと
      早く言ってくれよ〜」


 そう言って、自分の服のいたるところをまさぐり出すニエミネン。

エッジ「………」

ニエミネン「………」

ブレット「………」

ニエミネン「………」

 ………。

ニエミネン「悪い。なにもねぇや」

エッジ「をいっ!!」

ニエミネン「だって、ほんとになにもねぇんだもん。
       う●このカスもねぇカンジ?」


エッジ「うん●とか言うなっ!!!」

ブレット「肛門括約筋が退屈そうだな」

エッジ「あんたまで何ノッてんだっ!!!
    ていうかその発言ヤバイだろっ!!!;;;」


ブレット「まぁ、…何もないなら仕方がないな。
     諦めるさ」


エッジ「マジかよ…」

ブレット「人間諦めも肝心だろ?」

エッジ「ちぇ〜。面白くねぇ…」

 戸外で遊ぶ健康優良小学生児童たちに背を向け、
 風鈴小学校を後にする二人。

ニエミネン「あ、おいっ…!」

 ふいに、追いすがってくるニエミネン。

エッジ「…なんだよ?」

ニエミネン「あ、…のさ、……悪かった…ゴメン……」

 素直に謝るニエミネンに、エッジは仏頂面を返す。

エッジ「……別に、…謝るっていうなら、根に持ったりしねぇよ。
    ただし、」


ニエミネン「ただし…?」

エッジ「次のレースでは”ぶっちぎり”で負かしてやるから、
    覚悟しとけよな?」

ニエミネン「なっに〜〜〜!!!?
       ぶっちぎりは俺のもんだーーーっ!!!」


 喚くニエミネンから、逃げるように背を向けて走っていくエッジ。
 ブレットは少し笑ってから、その後を歩いて追いかける。

 ブレット「まったく、素直じゃないヤツだ…」


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