「僕、ゴー君とこ遊びに行ってくるね!」 …やっぱり、この日も我が儘大王の一言から始まった。 |
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すっごい日常的な風景。 |
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「駄目です」 シュミットは、ミハエルの言葉を一刀の元に切り捨てた。 「えー、なんでー?」 「今日はロッソストラーダ対クールカリビアンズ戦のデータ収集だと言っていたでしょう」 「いらないよ、そんなの」 機嫌を損ねた王子は、ぷい、とそっぽを向いた。 「いらない訳はないでしょう。データは必要だし、 彼らのレースを見ておくことは有意義なことです」 「レースビデオ見てるし」 「ビデオと本物は違います」 「なんだよぉ、勝てばいいんじゃない。それともシュミットは僕が信じられないって言うの?」 「そんなことは言ってないでしょう」 穏やかに、笑みさえ浮かべて口論し合う二人の間で、どうしていいか判らずおろおろしているエーリッヒ。 さりげなく止めようと努力はしているらしいが、ことごとく失敗に終わっている。 毎度のことながら、この二人の言い争いは静かなだけ恐い。 そして、それをある種達観しながら傍観するアドルフとヘスラー。彼らは、彼らの力では上二人の言い争いを 止めることは出来ないと悟った猛者達である。 いや、猛者かどうかはおいておいて。 つまり、彼らの主義は「無駄なことはしない」だ。 「データと情報はあればあるほどいいんです」 「僕にはデータも下見も必要ないんだよ。そんなの君たちが 一番よく知ってるじゃないか。ねえ、エーリッヒ?」 「えっ…!」 突然話をふられて、今まで止めようとしていた苦労性の少年は声をひっくり返した。 「僕のセッティングは最適かつ最高。データなんて必要ないよね?」 「情報収集は確実な勝利のための必須条件だろう、エーリッヒ」 「えっ……えっ…あの…」 ずい、と二人に迫られて、エーリッヒは後退した。 どちらの言い分も正しく、また、どっちに肩入れしても後々厄介だ。 しかし、どうにかしないと今日一日がこの言い争いでつぶれるだろう。 それこそ馬鹿馬鹿しい。 「確かにミハエルにはデータは必要ないかもしれませんが、 やはりチームの作戦を立てる上でデータは必要だと…思います」 無難なところで手を打とうとするエーリッヒ。 しかし。 「ほら、エーリッヒもこう言っているでしょう」 「だから、君だけで行ってくれば? 僕にデータが必要ないことも、エーリッヒは認めてるじゃないか」 言い争いは続くのだった。 思いきり言い争える人がいるのは、いいことだと思うのだけれど。 エーリッヒはぼんやりとそんなことを思ってしまう。 せめてもうちょっとどっちかが妥協できる精神を持っていたらなぁ…。 しわ寄せが全部自分に来る分、エーリッヒの願いはかなり切実だ。 「…データ収集に行くんなら、そろそろ出た方がいいと思うけど…?」 そぉっと挙手して、アドルフが口を挟んだ。 時報係が居ないと、絶対にこの口喧嘩は終わらない。 「なに、もうそんな時間なのか? ミハエル、行きますよ」 「僕はゴー君の家行くって言ってるの。聞こえてないの? エーリッヒに耳掃除でもして貰えば?」 「…ッ!」 かぁっ、とシュミットの顔が赤くなる。 それを怒りのためだと誤解したエーリッヒが、慌ててシュミットを止めに行く。 「あ、あの、こうしていても仕方ありませんし… やはりデータ収集はシュミットだけで行ってはどうです…?」 後から言われる言葉は予想できたが、それを覚悟で提案する。この場を丸く収めるためには、 多少の犠牲(主にエーリッヒの胃)は仕方あるまい。 「わーいっ! だからエーリッヒって大好きv」 その提案に、ミハエルがエーリッヒに抱きつく。 大好きなら、もうちょっと僕の立場も考えて行動して欲しいなぁ…などと 120%叶えられそうもない 願いを胸に抱いてしまう。 ミハエルとは対照的に、シュミットは苦い顔をしていた。 それが、なにからくるものかは…アドルフとヘスラーにはよく判ったが。 おそらくエーリッヒには判らないのだろう。 「まったく、お前は本当にミハエルに甘いな!」 怒鳴られて、ビクッとエーリッヒは肩を竦めた。 「そんなことだからミハエルも調子に乗るんだぞ? 判ってるのか?!」 「判ってはいますけれど…」 「いいや、判っていない! 逃げ口を用意してしまうからミハエルもそれを…」 「エーリッヒを責めてる場合でもないぞ。時間」 あまりにもエーリッヒが気の毒で助け船を出したのは、ヘスラーだった。 シュミットも、これ以上エーリッヒの胃の穴を拡大してどうしようというのか。 「ふん…、仕方がない、今はここまでにしておく」 と、いうことは、やっぱり後で何かある訳か…。 どうして僕が説教を受けなければならないんだろう、 と理不尽な思いに捕らわれながらも、とりあえず 一段落したことに安堵の吐息をもらす。 「ほら、行くぞエーリッヒ!」 「ってなんで僕まで?!」 「なに言ってるんだ、当然だろう」 なにが当然なのか、まったくもって判らないが。 どうやらシュミットの中では決定事項のようだった。 「でも、今日は報告書の作成と買い出しが…」 …あんたはどこのアパート暮らし独身リーマンだ。 「そんなものはアドルフとヘスラーに任せればいい」 「……」 心底困ったような顔で、エーリッヒは二人の方を振り返った。 …そんな目をされて、どうやって断れっていうんだろうか。 もともとこの二人も人が良い。 それに、エーリッヒには常日頃からいろいろと借りが (特に上二人の問題について)あるわけで…。 「…ヘスラー、じゃんけん」 「ん。」 じゃーんけーん… 「ほい!! あ゛っっ!!!!」 「…買い出し」 「…………じゃ、俺報告書作成で……」 …はい、決定。 こうして、アイゼンヴォルフの一日はようやっと幕を上げる。 …しかし朝食終了までを省いても、この長さなのであった。 →続く。 |
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シリアス書いてると、反動でギャグが書きたくなったり。
ギャグを書いていると、反動で救いようもない話が書きたくなったり。
…します。
モドル