では、よろしくお願いします。と何故か腰低く言い、bSに報告書作成用データを、
bTに買い出しメモを渡して、猫目の少年は御貴族様について出ていった。

 苦労性とは彼のような人物を指して言うのだろう。
 しかしながら、彼は自分から苦労を量産している気がしてならない。
 もう少し厳しくなることが出来れば、彼の苦労は100kgくらい軽く減るだろう。っていうか、
それじゃあ今現在彼はどのくらいの苦労を背負っているというのだろうか。
 余裕で噸くらい行きそうだな…。
 まぁ彼が厳しくなればその分こっちに対する風当たりがきつくなるという訳なので、
今の平穏な日常を壊してくれるなという意味では彼は便利な人身御供だと。

 だいたいからしてどうしてああ威厳がないんだろう。アイゼンヴォルフは大所帯だし、
一軍のメンバーともなれば下を纏めるための威厳は自然と付いてくるものだと思うのだが。
たしかに、2軍以下のメンバーの前に立つときやレースの時には表情を変えるが…、今ひとつ、足りない。
ま、bQが2だけにな…。彼が厳しく接する分、その下請けであるbRは始終穏やかに、
メンバーの愚痴などにつき合わねばならないんだろうが。
 そのために自分の健康を害してどうするんだろうなぁ。
 傍観している俺達にも責任の一端があるっちゃあるんだけれど。



 ヘスラーは、寡黙なぶん心の中の口数は少なくなかった。
 「人間観察・エーリッヒ編」を脳味噌の中で構成しながら、風鈴商店街へと歩いていく。
 日曜日だということもあって、商店街はなかなかの賑わいを見せていた。
 WGP開催に伴った外国人観光客も、なかなか目立つ。
 なんだか国際街だなーという感想を抱きつつ、ヘスラーはゆっくりとスーパーに向かった。

 その、途中。

「あれ、あんた、アイゼンヴォルフの…」

 声をかけられて、この辺りに自分以外にアイゼンヴォルフのメンバーは居ないからと振り返ってみる。

「やっぱり。思った通りキニ」

そこにいたのは、灰色の髪の少年だった。
 言葉遣いから、ブーメランズのメンバーであろうという予想は付く。
 ブーメランズといえば、不思議なゴーグルをかけている2人がやたらに印象深かったので、
他のメンバーはあまり覚えていなかった。

「今日はこんな所で何してるゼヨ?」
 
小首を傾げながら、彼は訊いてくる。 

「…買い物だが」

正直に答える。こんな所で嘘をつく必要もない。

「そういうのはエーリッヒの役じゃないのかゼヨ?」

 …どうしてチームの内事情がバレているんだろう?

 ヘスラーは首を傾げた。よもや“見ていてバレバレ”だとは思うまい。

「今日は、彼はデータ収集で」 
「ああ、カリビアンズvsロッソ戦!
うちはウィリーとローランが行っているはずゼヨ」
「…そうなのか」 
「そうゼヨ」
「…」
「…」
「それで」
「何ゾナ?」 
「君は、何を?」
「ああ、俺は付き添いゼヨ」
「付き添い?」
「ってかお邪魔虫?」

 …訊かれても。

 アレ、とバーニーが指さした先、やたらにファンシーな色合いの店から、
2人の少年少女が出てくるところだ。
ぐったりした感じの少年は両手に山ほどの荷物を抱えており、
対照的にハンドバッグ一つの少女は
元気いっぱいにはしゃいでいる。
 どちらも、WGPパンフで見た顔だ。
 カップルらしい二人は、パタパタよろよろとバーニー達の方へ向かってきた。

「ただいまぞなもし」
「バァーニィィー。ズルイゼヨー。
俺一人に荷物持ち任せて逃げるなんてー」

 グズグズ懐いてくるチームリーダーに、まあまあ、と声をかけながら、
バーニーは手荷物を半分受け取る。
 どうやら、バーニーを帰したくないのはジムらしい。
1人より2人の方が、被害は少なくて済むのだ。

 …うちのチームは、被害者3人だが。
被害の割合は6:2:2といったところだよなぁ…。

「あれ? ねぇジム、この人もしかして…」
「あぁ!! アイゼンヴォルフの一軍の………………ええっと……」 

まだ一度も対戦していないし、ブーメランズとの試合はもっと後だ。
 それに、一軍はWGP参戦から間もない。顔と名前が一致しなくても当然だ。

「…ヘスラーだ」
「そう! そうヘスラーゼヨ!!
 俺、ブーメランズのリーダーでジムゼヨ。ヨロシクゼヨ」
「…よろしく」
「私はシナモンぞな」
「俺はバーニーキニ」
「ああ。…よろしく」

ひととおり自己紹介をされて、ヘスラーはゆっくりと3人を眺めた。

 …身長が皆同じくらいなんだな。ミハエルくらいか…。

 正確に言うと、何故かミハエルを含めてピッタリ同じだが。
 そして、ジムとシナモンを見て、ヘスラーはふと尋ねてみたかったことを思いだした。

「…ジムとシナモンは…その…付き合って、いるのか?」 

 何故か照れて顔を赤くしながら、ヘスラーは訊いてみる。
 3人はきょとん、としてヘスラーを見る。
 何故そんなことを訊くのか、という顔だ。
「あ、いや、その…変な意味じゃなくて……あ、っと、そうだ、
え…付き合いだしたきっかけとか、知りたくて……」

ジムとシナモンを見ていて、自分のチームのbQと3を思いだした。
 引きずる方と引きずられる方、というイメージはピッタリだ。

…もっとも、両方男だけど。

お互い想い合っていると、端から見て丸分かりなのに
進展しないあの二人の関係は、どうも見ていられない。


…一緒にいてくれればいいと思う。
 あの2人は、2人一緒にいて完璧なのだから。


「ヘスラー、好きな人でもいるぞなもし?」
「ェッ?!」

妙な勘違いをされて、ヘスラーは奇妙な声を出した。 

「違うきに? 好きな人がいるから、そんなこと訊くんじゃないのかぜよ?」
「ち、違う。俺じゃなくて…」
「なくて?」
「なくて…」

 言っていいものだろうか?
 彼らのことを思うと、そっとしておく方がいいのかもしれない。
 …けれど…。

「…俺じゃなくて、俺の友達に…」  
「好きな人がいるぞな?」

 こくり。

ヘスラーは頷いて見せた。
 その瞬間、シナモンの瞳がキラリと光ったのを見逃さなかったのは、
付き合いの長いブーメランズの2人だった…。

                      
 
続く

 ゴメンナサイ。趣味に走ってます。
 バァニィ好きなんですよぅぅ…(同志求ム)。



モドル