食堂から出て、正面玄関前のロビーへと足を運ぶ。
すると、奥の階段から一人の少年が降りてきた。
それは、あと半年もすれば確実に胃にエーリッヒと同じ病を
持つことになるだろう美少年だった。
ワルデガルド「あ、やあ」
ブレット「ああ」
エッジ「よぅ♪」
ワルデガルド「そうだ、二人とも…」
ブレット「ニエミネン・スノオトローサなら見ていない」
ワルデガルド「………そうか…」
エッジ「………」
この、苦労性の北欧のリーダーは、一日の6分の1は、
チームの誰かの行動によって引き起こされる面倒ごとによって
確実に消費されている。
以下、その内訳。
ニエミネン:56.2%
ジャネット:29.1%
バタネン:19.8%
マルガレータ:10.7%
ヨハンソン:0.2%
………可哀相に。
サテライト・ワンから受信したデータを見て、
ブレットとエッジはちょっと彼が気の毒になった。
…100%を軽く超えてる。
ワルデガルド「今日はチームの練習走行の日なのに、
朝食の後から姿が見えないんだ。
フォーメーション練習だから、あいつには絶対に
させておく必要があるんだけど…」
ふぅ、と溜め息を吐くワルデガルド。
ブレット「見かけたら、チームルームへ戻るように言っておこう」
ワルデガルド「助かる」
ブレット「ああ、ところで」
ワルデガルド「何だ?」
ブレット「何か面白いアイテムを持っていないか?」
ワルデガルド「は?」
ブレット「こいつと交換して欲しいんだ」
ピカチ●ウボールペンを取り出して見せるブレット。
ワルデガルド「…何か持っていたかな…」
ブレット「何でもいいぞ」
エッジ「(まぁワルデガルドなら滅多な物はでてこないだろ…)」
ワルデガルド「ああ、こんなのはどうだろう?」
ポケットから、なにやら綿毛の塊のようなものを
取り出すワルデガルド。
エッジ「……なにそれ」
ワルデガルド「梵天だけど」
ブレット「普通そっちだけなくなったりしないか?」
ワルデガルド「うちの場合は、
いつもこれだけ残して本体が消えるんだ…」
ブレット「なかなかミステリアスだな」
ワルデガルド「そうなんだ」
エッジ「あのー…、スミマセーン…」
ブレット「何だ?」
エッジ「ボンテンってなに…?」
ブレット「まぁ、インド哲学における万有の原理
ブラフマンを神格化したものだな」
ワルデガルド「…何を言ってるんだ?」
ブレット「梵天だろう?」
エッジ「何を言っているか解らない…;;」
ブレット「まぁ、一般に言う「ほて」のことじゃないか?」
ワルデガルド「……いや…違う気が…」
エッジ「ホテ?」
ブレット「それも知らないのか…。竿の先にわらや幣束なんかを
結びつけたもので、日本で祭りの日に立てるんだぞ」
エッジ「へぇー」
ブレット「イカ釣り漁船の明かりのことも梵天って言うんだぞ」
エッジ「ほぉー」
ブレット「ちなみにワルデガルドの持ってるような梵天は、
ほとんどがアヒルの毛でできている!」
エッジ「すっげえー!」
ワルデガルド「なにがだ…?」
エッジ「……で、結局ナニアレ?」
ブレット「みみかきのうしろについてる綿みたいなのだ」
エッジ「あ! あれか!」
ワルデガルド「おぅーい…」
ブレット「ああ、すまない忘れていた」
ワルデガルド「これじゃ駄目か?」
ブレット「構わないぞ」
エッジ「いいのかよ!!」
ブレット「梵天をいつも持ち歩いている
その無意味さに敬服を示したい」
ワルデガルド「それほどでも…//」
エッジ「照れるところじゃないだろ…?」
ブレットはワルデガルドの梵天と
ピ●チュウボールペンを交換した!
ワルデガルド「じゃあ、俺はニエミネンを
探さないといけないから…」
ブレット「ああ、頑張れ」
ワルデガルドの運の悪さだと、おそらく
ニエミネンを発見・捕獲することは不可能だ。
二人はそんなことを思いながら、食堂の方へと
歩いていくワルデガルドの背を見送った。
食堂にはニエミネンはいなかったと、伝えもせずに。
→風鈴商店街
→風鈴公園