「…ん、大丈夫。ご主人さまのこと、大好きだから。…だから、痛くてもがまんします。だから、だから、終わったら、いっぱいなでなでしてくださいね」
そう言ってエーリッヒは、幾筋もの涙を頬につたわせながら、ぎゅっと堅く目を瞑った。
微かに震える小さな身体が愛しくて。
そんな風に怖がらせたり、泣かせる自分がやるせなくて。
…それでも、求めてしまう。
そっと、首輪を外した細い首筋に唇を落とすと、びくりとエーリッヒの身体が強ばった。
ゆっくりと身体のラインをなぞっていくと、エーリッヒは細く声をあげる。
時折手を止めて、エーリッヒの感じやすいらしいところで遊ばせた。
「…ご、しゅじん、さまっ…」
慣らされた体は、たったこれだけの愛撫で、簡単に甘く痺れてしまうらしい。
自分のカラダの淫らな疼きが判るのか、エーリッヒは真っ赤になった顔を、柔らかい枕に押しつけた。
そんな可愛いしぐさに、自然と笑みが浮かんだ。
愛しい、護りたいと思う心情とは裏腹に、悪戯な情欲に煽られた指は、内股へと滑っていく。
「ぁっ…い、いたっ…」
爪の先をソコへ押し入れると、エーリッヒはますます身体を強ばらせた。俺の行動を制止するように、腰を引く。
それでも無理に指を進めようとすると、エーリッヒは慌てたような声を出した。
「ご、ご主人さまっ…、…手、」
「手?」
「手、貸して…下さい…」
彼の真意が判りかねた。それでも、うつ伏せにベッドに横たわるエーリッヒの、小さな手に、自分の手を重ねる。
ゆっくりとエーリッヒは身を起こし、俺の指を、幼い手で押し頂くように包むと、唇を寄せた。
熱い舌に触れられて、驚いて、一瞬指を引いてしまった。
すると、エーリッヒはびく、と肩をふるわせ、目を瞑る。数秒が過ぎても、俺が動かないのが判ると、エーリッヒはそっと、瞼を持ち上げた。
上目遣いに、…俺の機嫌を伺うように、エーリッヒは見つめてくる。微笑んでやれば、明らかに安堵したような表情になって、また、
俺の指を舐め始めた。
口腔内でせわしなく動かされている舌に、煽られているのが判った。押さえようもない熱が、下半身に集まっている。
やがて、エーリッヒは指を口から引き抜いて、儚く笑った。
「…も、大丈夫、です」
そう言って、また、元の通り、ベッドにうつ伏せる。
成る程、よく調教されている。けして主人に楯突かないように。もしも主人が不快を感じたら、たとえどんな懲罰を受けようともそれが当然の
ことなのだと----。この仔猫は、そんな世界で生かされてきたのだ。不満を言うこともできず、いや、言うことすら思いつかないような場所で。
「…ごめんな、エーリッヒ…」
呟くように、懺悔の言葉を紡ぐと、エーリッヒは、くすくすと笑った。
「…どうして、謝るんですか? …ご主人さまは、僕に、いろんなことをしてくれました。いっぱい、嬉しいことをしてくれました。…でも、僕は、
どうしていいか判らないから。こんなことくらいしか、出来ないから。………だから、悪いなんて、思わないで下さい」
そうして、最後に、泣きそうな声で。
「……ご主人さまに、喜んでもらいたいんです…」
判ったことがある。
エーリッヒは、本来、こういう行為が、どういう状況において成立するものか、全く知らないということ。
愛す…、愛されるという暖かい心情に、触れることすら許されなかったこと。
「…エーリッヒは、」
尋ねると、エーリッヒは心持ち首を傾げた風に見えた。
「俺とするの、…イヤ?」
「イヤじゃないです。大丈夫です」
「そうじゃなくて。俺が喜ぶとか、そういうのは置いておいて。…お前の、気持ち」
「きもち…?」
嫌と言っても、聞いてもらえなかった。…拒絶は、酷い懲罰になって返ってくる。
暗い闇のような、希望も何もない牢獄で。
この子は、幾夜泣いて過ごしたのだろう。
幾夜、体を、心を痛めてきたのだろう。
「したい?」
「……痛いし、恐いし、辛いし、………イヤです。…でも、」
がば、とエーリッヒは起きあがり、濡れた瞳で、真っ直ぐに俺を見つめた。
「今までの、どんな人より、貴方は優しいから。だから、恐くないです。辛くもないです。…して、ください…」
淡青の瞳が、熱を帯びているのが判る。
細い体をぎゅうと抱き締めて、そっと、仰向けにベッドに倒す。
エーリッヒが、俺の顔を見ていられるように。
涙の跡の残る頬や、柔らかな唇に、何度も口付ける。くすぐったそうに、エーリッヒは笑った。
そうして緊張と硬直を解いてから、ゆっくりと、両脚を広げさせる。何度も成された行為であろうのに、まだ恥辱が伴うのか、エーリッヒは
微かに頬を染めた。
乾きかけている自分の指を自らの唾液でもう一度濡らして、つぷ、とその場所に侵入させる。
「あぁっ…!」
エーリッヒの体が、弓なりにしなる。
柔らかい肉壁を押しのけるように、ゆっくりと指を進めていくと、エーリッヒはひっきりなしに甘い声をあげた。
「あ、んっ……ふ……あっ…」
指の数を増やして、内壁を引っ掻くように動かす。
焦らすような動きに耐えられなくなったか、エーリッヒは悲鳴に近い声をあげた。
「ごっ…しゅ、じん、さまっ…、も、…もうっ…。い、れて、くださぁっ…!」
やはり、慣らされているのだろうか、おねだりの言葉はエーリッヒの口から、いとも容易く吐き出された。
安っぽくて、でも欲望を掻き立てられる。
体に無理矢理覚え込まされた、彼にとっては辛い言葉だと知っていても。
「…ああ、あげるよ…」
か細い足を持ち上げて、とっくに高ぶっている自身を、エーリッヒの中に圧し入れる。
「あ、あああっ…!」
エーリッヒの中は、アツくて、キツクて、目眩がしそうだった。
それは、エーリッヒも同じだったのかもしれない。
「ご主人さまっ……、ア、ツい…」
涙を零し、シーツを握りしめて、エーリッヒは過ぎる快感に耐えていた。
小さくて細いエーリッヒにとってはなおさらに、けして、快感だけの行為ではなかったけれど。
ゆっくりと腰を動かし始めると、エーリッヒは、ひときわ高く鳴いた。
「あ、ひぁっ……ご、しゅじん、さまぁ…っ!」
否応なく高められて、息が荒くなって。
ご主人さま、という呼び方に、あいつが誰を思い浮かべているのか不安になって。
「エリ…、名前、呼んで…」
激しく腰を打ち付けながら、言った。
「あっ、あっ…な、に…っ? ごしゅじ……んっ?」
また、そう呼ぼうとしたエーリッヒに、体制を上げて口付ける。
そうやって言葉を奪い取って、ブルーグレイの瞳に自分しか映っていないのを確認して。
もう一度、名前を、と言う。
「あ、んんっ…シュ、ミット、さまぁっ…あ、あぁぁっ!!」
呼んだ瞬間、エーリッヒは達して。
直後に俺も、絶頂を迎えた。
モドル 1 2 3 4 5 6 ご意見ご感想
“ご主人さま”が犯罪者だわ…(汗)。