もしもシュミットが言ったことが本当だったとしたら、僕は何の為に親友に抱かれたりしたんだろう。
そうして何の為に、あの人は僕を抱いたりしたんだろう。
判らないままに、僕は階段を駆け下りてイタリアチームルームのドアをノックした。
ドアを開け、リーダーに取り次いでくれたのはリオーネさんだった。この人は、自分と女性にしか
興味がない。何度かこの部屋を訪問する中で、僕はそれを知った。
失礼します、と一声かけて入った彼の部屋には、煙草の煙が充満していた。
「…窓くらい開けたらいかがです?」
煙に咽ながら、カーテンまで閉められた窓に近づく。
煙草のせいで本来の色の判らなくなったカーテンを引き開け、窓を開け放つ。
一陣の風が部屋に吹き込むと共に、部屋を取り巻いていた紫煙が微かに薄らいだ。
振り返ってみると、ベッドに寝転んだままの彼は渋い顔をして、天井を睨みつけていた。
僕は黙って、ベッドに腰をかけた。
カルロが何も言わないので、僕も黙っていた。
5分もした頃、背後で人の動く気配がした。振り向いてみると、カルロは起き上がり、
短くなった煙草を灰皿に押し付けていた。
「…今更何の用だよ」
彼の手を注視していた僕は、その声で現実に引き戻された。
彼もまた、自分の指の先で、灰皿に揉み潰される煙草を見ていた。
「…卑怯だったと思ったんです」
深い海色の瞳が、僕を睨めつけた。
「卑怯? 何がだ、俺のヤリ口か?」
厳しい調子の声に、僕は首を横に振った。
視線の厳しさは、すこしも減じることがない。
「僕が、ですよ」
言いながら、緊張しているのを自覚した。
莫迦だな。
何度肌を重ねたかもわからない相手に対して。
「…シュミットに、少し言われました。そのことで、貴方に伝えたいことができたんです。
…考えてみると、僕も貴方も、言ったことがなくて」
思考回路がついていかない。
整理できない言葉だけが、気持ちと一緒に溢れ出す。
傍目には静かに、冷静に見えるかもしれないが、頭と心の中は熱くてぐちゃぐちゃで。
真っ白で。
「僕は、貴方が好きです。だから、今までのように傍にいることを許してほしいんです。
この体をどうしてもいい、貴方の言うことに従います。…僕を、貴方の玩具にしてください」
カルロは、火をつけようと咥えていた煙草を取り落とした。
驚愕に見開かれていた目が、すぐに憎悪の色に燃えた。
「止めろよテメェ…、そんなに俺を苦しめたいのかよ?
そんなに、俺はからかい甲斐があんのかよ!」
その言葉は、シュミットの言ったことを裏づけした。
…この人も、僕を好きなのだと。
だから、こんなに怒るのだと。僕を憎むのだと。
僕は腕を伸ばし、彼を…カルロを抱きしめた。
「離しやがれ、この…!」
「信じてくださらなくていい。ただ、知っておいてください。僕は、好きでもない人を
誘惑できるほど強くない。好きでもない人に抱かれようなんて思わない。
貴方の気が惹きたかった。だから、貴方に冷たい素振りをしました。貴方を
冷笑しました。僕が貴方を嫌いで、貴方も僕が嫌いで、そんな関係なら、
貴方は僕を捨てない。そう思ったんです。体以外に関係を持たなければ、
貴方は僕を抱き続ける。そう思ったんです。それでよかったんです。
貴方の体だけでも、繋ぎ留めておくことができれば僕は満足だったんです」
すべてを伝えたくて、もどかしく拙い言葉を綴った。
とにかく、好きだという気持ちだけ伝わればいいと思った。
このことで、カルロが僕を嫌いになっても構わなかった。
カルロは、何も言わなくなった。抵抗もしなくなった。
僕が腕に力を込めると、カルロはウゼェ、と呟いた。
「…テメェはどこまでもおキレイだな」
カルロは僕を嘲笑した。
そうして体を離し、僕の唇にゆっくりとキスをした。
それはひどく優しい動作で、彼には似合わなくて。
だから僕は…悪いとは思ったが、笑ってしまった。
カルロは不機嫌そうに顔をしかめた。
「俺は、テメェを引きずり落とすのは諦めたんだよ」
ぶっきらぼうに言って、まだ笑っている僕から視線をはずした。
「…だから、傍にいたいってんならテメェが俺のところまで堕ちて来い」
返事の代わりに、僕はカルロの唇に自分のそれを重ねた。
苦い煙草の味がした。
→続く。
ひでぇ文章だな、ヲイ…;;;;
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